再注目されつつある従業員持株制度、そのメリット・デメリットについて
2016/06/28   商事法務, 会社法, その他

はじめに

従業員に自社の株式を保有させる従業員持株制度が近年再び注目されています。低金利時代に従業員の資産運用の有効な選択肢でもあるこの制度。会社、従業員双方にとってメリット・デメリットが存在します。今回はそんな従業員持株制度について見ていきたいと思います。

従業員持株制度とは

従業員持株制度とは企業が従業員に自社の株式を保有させる制度です。一般的には企業内に持株会と呼ばれる機関を設置し、従業員の給与から任意の拠出金を天引きして得た資金で自社株を購入し保有させます。持株会は民法上の組合に当たる組織で(667条1項)これらの事務を一括して取り扱います。上場企業の多くが採用しており、拠出金の割合に応じて補助金を交付し自社株購入を促進している企業もあります。金融庁と東京証券取引所が策定した上場企業のための企業統治指針であるコーポレート・ガバナンスコードが昨年適用されました。それによると企業間での株式の相互保有は解消すべきものとしており企業にとって新たな安定した株式の保有先として従業員持株制度が注目され始めました。

従業員持株制度のメリット

まず従業員にとって有益な投資先となり得るという点が挙げられます。多くの企業では自社株保有を促進するために補助金を交付しております。例えば拠出金の10%を補助すると定めている企業では、従業員が拠出金を毎月1万円と定めた場合、毎月企業から1000円補助され自社株を購入することができます。つまり10%分安く株式を購入できるわけです。そして業績が上がれば株価も上昇することから仕事へのモチベーションも上昇することになります。企業側にとっては相互保有以外の安定した自社株の保有先として期待できます。従業員が同時に株主であることから経営側の視点を持って業務遂行ができ、業績アップも期待できます。

従業員持株制度のデメリット

従業員にとっての一番のデメリットは処分がし辛いという点が挙げられます。通常自社株を売却する場合は持株会に申請することになります。自己が所属する会社の補助金を受けて保有している自社株ということで心情的にも簡単に処分しにくい面があると言えます。また中小企業の場合、多くは譲渡制限が設けられており処分に際しては会社の承認を要することになります。それとは別に退社するまで処分はしない旨の合意がなされることが多く従業員にとっては自社株の処分はほぼ不可能な場合も多いと言えます。企業側にとってのデメリットは従業員が株式を保有していくことによって、従業員がある程度経営に参画することになり、経営陣にとっては安定性が逆に阻害されることもある点です。1%以上の議決権を保有することによって株主提案が可能となり、3%以上で帳簿閲覧権を従業員が持つことになります。また一番のデメリットとして従業員の退社時の手続きが挙げられます。譲渡制限を設けている中小企業では従業員が退社する際に保有していた自社株を会社が取得することになりますが、取得手続と買取価格決定が非常に煩雑となります。会社が株式を買い上げる場合は自己株式取得手続(会社法156条以下)を経る必要があり、基準となる相場が存在しない非上場会社では価格算定が困難で紛争にも発展し得ると言えます。

コメント

以上のように従業員持株制度には企業、従業員双方にとってメリット・デメリットが存在します。特に非公開の小規模会社では従業員に保有させる株式の議決権や株式の処分制限、退社時の株式取得価格について慎重に定めておく必要があると言えるでしょう。一方で従業員の利益にも一定の配慮が必要です。譲渡制限会社では退職時に取得価格で会社に売り渡すことを合意することが多く(売渡強制条項)これについて売渡価格が現在の会社規模に合致していないとして紛争に発展することがあります。この点について判例は①従業員が制度の内容を理解し自己の意思で合意している②補助金等により時価より安く取得、配当を受けている等の何らかの利益を享受していた③退職の都度価格決定は困難等の場合には、基本的に取得価格での売渡強制条項は有効としています。つまり従業員の自由意思とある程度の利益享受があれば有効ということです。一方で、取得時の補助も無く、議決権、利益配当も無い場合には当該合意は公序良俗に反する等により無効となることも十分にあり得るので、注意が必要です。従業員持株制度導入には会社の規模や資産状況等も考慮し、以上の点を踏まえて検討することが重要となります。

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