脱時間給制度を設ける労働基準法改正案の先送り
2016/01/12 労務法務, 労働法全般, その他

1、労働基準法改正案について
政府与党は、成果に応じて賃金を支払う脱時間給制度を設ける労働基準法改正案について今回の通常国会での成立を見送り秋以降に先送りする検討に入ったと1月12日付日本経済新聞電子版が報じています。
これは、野党の反発が強いことと会期延長が難しいと政府が判断したためと考えられます。以下、脱時間給制度の概要とメリット及びデメリットをまとめました。
2、脱時間給制度の概要について
脱時間給制度は、正式には高度プロフェッショナル制度といいます。働いた時間と関係なく成果によって賃金が決まる制度です。この制度の趣旨は、健康確保や仕事と生活の調和を図りつつ労働時間の長さと賃金のリンクを切り離した新たな労働時間制度を創設することによって残業代ゼロを目指すことにあります。
この制度の対象は、年収1075万円以上の高度な職業能力を持つ労働者です。高度な職業能力を有する労働者とは、具体的には金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)、研究開発業務等です。ただし、年収と職種は労働政策審議会の分科会で議論して法案成立後に省令で定めることになっています。
さらに会社で脱時間給制度を導入するには、本人の同意とともに働きすぎを防ぐ策の実施が必要となります。具体的には、①年104日以上の休日取得、②1ヶ月間の在社時間などの上限、③就業から翌日の始業までに一定時間の休息のいずれかを労使間で合意することになります。
3、脱時間給制度のメリットについて
同じ仕事を行う社員でも短時間で仕事を済ませる社員よりも残業をして仕事をする社員の方が給与総額が高くなるという問題があります。脱時間給制度の導入は、このような問題の解消につながり労働意欲の増進につながります。
また、クリエイターやマーケッター、デザイナー、インベストメントバンカーなどの専門職で仕事を労働時間で測ることが難しい職種には、あらかじめ目標を設定することによって作業効率が上がることにつながります。
4、脱時間給制度のデメリットについて
企業側が脱時間給制度を悪用して残業代をゼロにしてなおかつ制度導入前と同じだけの労働時間を労働者に事実上強制するおそれがあります。また、労働者は成果を達成するまで長時間働かなければならず結局労働時間が長くなるおそれもあります。さらに、残業代ゼロは、単にサービス残業を合法化するにすぎずこれもまた労働時間の延長につながりかねません。そして、脱時間給制度は、労働者の同意を要件としていますが、日本における労使の力の差を鑑みると事実上強制することによって残業代がゼロになり賃金カットを図るおそれもあります。また、年収と職種を省令で定めるため国会の審議を経ずに行政庁が決定することになります。その結果、行政庁の裁量により制度の対象が拡大されるおそれがあります。
5、まとめ
脱時間給制度の導入の前に職場全体の労働時間を徹底的に見直し労働基準法32条2項にいう1日8時間で成果を出せる環境を作りだすことが必要であると思われます。このようにする前に脱時間給制度を導入すると結局はデメリットで示したとおり労働時間の延長のみを招くことにつながりかねません。しかしながら、この労働時間の延長は、制度の概要で示した在社時間の上限を規定することが有効であると思われます。もっとも、これだけでは足りず、労働政策審議会で検討されたように労働時間の上限を設けることも必要であると思われます。
脱時間給制度の導入は、働き方の選択肢を増やすことにより年功序列や終身雇用といった従来の日本型雇用を壊し労働市場の流動性の確保につながります。さらに、クリエーターなどの時間換算で成果が測れない職種がますます増加していく中で労働者の意欲の確保にもつながります。
脱時間給制度は、職種が多様化する現代社会に対応する制度であり労働時間の上限を設けた上で早期導入すべきであると思われます。
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