職務発明は会社帰属になるのか
2014/10/06 知財・ライセンス, 特許法, その他
職務発明とは
職務発明とは、会社に勤める従業者が会社の仕事として研究・開発した結果完成した発明 をいいます。
現行特許法では、職務発明の特許権は、従業員に帰属することになります(特許法35条)。なぜなら、特許法は、自ら時間や資金などを用い発明をした者に特許権が帰属すべきだ、と考えているからです。(特許法29条参照)
特許法
第二十九条 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
第三十五条 使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。
3 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。
現行特許法の下における職務発明の扱い
特許法35条1項によれば、①従業者の発明であること、②使用者の業務範囲に属する発明であること、③従業者の現在又は過去の職務に関する発明であること、の3要件を満たした場合、
「職務発明」に該当し、使用者(企業)が通常実施権を有する(特許法35条1項)ことになります。
通常実施権は、当該発明等を使用することができる権利をいい、独占排他的な使用を認めるものではありません。他方、専用実施権は、当該発明等を独占排他的に使用することができる権利をいいます、
上記の通り、従業員が発明した場合、職務発明に当たったとしても、企業は、特許権を有するものでなく、実施権についても独占排他的な使用を行うことができない権利を有しているにすぎません。
そのため、企業は、従業員との契約や就業規則において、専用実施権が会社に与えられるようにするのが通常となっています。
もっとも、特許法35条3項によれば、従業員には、専用実施権を企業に認める対価として、相当の対価の支払いを求める権利が認められているため、企業は従業員に対して一定の金員を支払わなければなりません。
いま議論になっている改正案
目下議論の的となっているのは、職務発明の特許権を企業に帰属させるという法律案です。
このような法律案が実際に国会の可決を経て、法律として施行される場合、
発明した従業員に対して、どのような報酬等によって、発明にかかったコストを社員に還元し、従業員の発明に対するモチベーションを維持していくのかという点が問題となります。
改正特許法に従業員のモチベーションに対する規定が盛り込まれるのか、それとも法には規定されず、就業規則などでカバーしていくのかが企業にとっては重要になります。
いずれにせよ、特許権が企業に帰属することになれば、従業員に対して努力に見合った対価を支払わなければなりません。それは、従業員の利益を守り、開発に対するモチベーションを維持させるためであり、同時に、従業員の他の企業への引き抜きを防止するためにです。
改正の背景には企業の特許権に対する保護を手厚くすることによって企業価値を高めるという政策があることは間違いありません。しかし、改正によって結果的に従業員が不利益を受ければ、優秀な従業員ほど努力に対する対価が支払われないことになり、優秀な従業員が流出することになってしまいます。
どのような改正案になったとしても、企業が競争を勝ち抜くためには、従業員に対し適正な報酬を支払うことが不可欠なのではないでしょうか。
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