契約不適合責任の解説 まとめ
2024/01/31   契約法務, 民法・商法

瑕疵担保責任から契約不適合責任へ

 自社の発注した製品に不備があった場合や、竣工した建物に欠陥があった場合、どのような請求ができるのでしょうか。またどのような責任が発生するでしょうか。今回は、2020年に大きな改正が入った「契約不適合責任」の規定について解説していきます。

 かつて売買の目的物に“隠れた瑕疵”があった場合、瑕疵担保責任という規定が置かれておりました。また、数量不足や権利の不備といった問題が内在している場合や請負の目的物に瑕疵がある場合もそれぞれ担保責任などの規定が用意されておりました。

 これらの規定により、瑕疵修補請求や減額、追完請求などが認められていた一方で、これとは別に債務不履行責任の規定も置かれるなど複雑で統一性に欠ける状態となっておりました。

 そこで、平成29年からの民法大改正により、これらの規定は「契約不適合責任」に統一されることとなりました。改正民法は、2020年4月から施行となっております。

 

法定責任説と契約責任説

(1)法定責任説

 かつての民法で採用されていた瑕疵担保責任は原則として特定物の売買に適用されるルールでした。特定物については契約で定められた目的物を現状で引き渡せばそれで足りるという、いわゆる特定物ドグマと呼ばれる考え方を基本としつつ、契約当事者間の実質的公平を図るために特別の責任を認めたものが瑕疵担保責任であるとするのが法的責任説です。法定責任説では瑕疵担保責任の対象は隠れた瑕疵であり、契約締結時までに発生していたものに限られており、買主が請求できる損害の範囲は信頼利益に限られるとされておりました。

(2)契約責任説

 これに対して、引き渡された目的物に瑕疵や数量・品質不足、種類違いなどがあった場合は不完全履行となり、瑕疵担保責任は債務不履行責任の一種であるとする考え方があります。これが契約責任説です。この契約責任説に立った場合、瑕疵担保責任の対象は隠れた瑕疵に限られず広く契約内容に適合しない場合に適用されます。また買主が請求できる権利は解除や損害賠償だけでなく追完請求や代金減額請求がも含まれ、損害の範囲は信頼利益だけでなく履行利益にも及ぶとされます。

 

契約不適合責任

 旧民法での瑕疵担保責任の法的性質については法定責任説が通説とされておりましたが、学説上の争いも依然として根強く、使い勝手の悪い規定となっておりました。

 そこで改正民法ではこれら担保責任の規定は削除され、契約不適合責任に統一されることとなりました。契約不適合責任ではこれまでの法定責任説ではなく、契約責任説が採用されているといわれています。

 上でも述べたように瑕疵担保責任の対象は隠れた瑕疵に限定されておりましたが、契約不適合責任ではそのような制限は無くなっております。また、買主側が行使できる権利も、解除、損害賠償請求だけでなく、履行の追完請求や減額請求も含まれます

 このように契約不適合責任はかつての法的責任説への批判を受けて契約責任説の考え方を取り入れた包括的でわかりやすい救済手段となっております。

 

契約不適合とは

 それでは現行民法の契約不適合とはどのような状態を言うのでしょうか。民法562条1項によりますと、「引き渡された目的物が、種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」とされております。

 種類、品質、数量について契約内容と相違がある場合に契約不適合となり、債務不履行となるということです。

 発注した機械の型番が異なっている場合、食品の銘柄が異なっている場合などが「種類」の不適合となり、購入したベッドの内部の綿の密度が契約の規定よりも低く寝心地が悪いといった場合は「品質」の不適合、石炭を10t発注したのに計量してみると9tしかなかった場合は「数量」の不適合ということとなります。

 また、建物の建築や施行を発注した際、壁材の色や型番が異なっていた場合、壁のコンクリートに亀裂があった場合、柱の内部の鉄筋の数が契約では4本であったところ、3本しかなかった場合なども契約不適合となります。

 

契約不適合における責任

(1)履行の追完請求

 契約不適合があった場合、買主は売主に対して①目的物の修補請求、②代替物の引き渡し請求、③不足分の引き渡し請求をすることができます(562条1項)。これらのうち、どの請求をするかは原則として買主側が選択しますが、買主側に不相当な負担を課すものでない場合は売主側が買主の選択と異なる方法を採ることも可能です(同但し書き)。買主が壊れている部分を修理するよう請求した場合、代わりの製品を納入するということも可能となります。なお、当然のことながら、不適合が買主側の責任による場合は追完請求はできません(同2項)。

(2)代金減額請求

 買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をしたにもかかわらず、売主が履行の追完をしない場合は、買主は不適合の程度に応じて代金の減額請求をすることができます(563条1項)。履行の追完がそもそも不能である場合、売主が追完をしないと明確に意思表示をしている場合、特定の日時または一定の期間内でなければ目的を達せられない場合、その他追完を受ける見込みがない場合は無催告で減額請求ができます。

(3)解除・損害賠償請求

 上記のように契約不適合責任は債務不履行責任の一種となります。そのため買主は追完請求、代金減額請求のほかに債務不履行に基づく解除・損害賠償請求をすることも可能とされております(564条)。旧法の担保責任の規定では瑕疵によって契約の目的を達することができない場合のみ解除が可能でしたが、現行法ではそのような制限はなくなっております。

 

権利行使の期間制限

 契約の目的物の種類または品質について契約不適合があった場合、買主がその不適合を知った時から1年以内に売主に通知しなければ上記の追完請求や減額請求、解除、損害賠償請求権は行使できないとされます(566条本文)。

 ただし、売主が引き渡しの時に不適合を知っていたか、または重過失があった場合にはこのような期間制限を受けることはありません。

 この期間制限は引き渡しによって履行が完了したと期待する売主を保護することが趣旨とされております。一方「数量」ついては期間制限の対象とされておりません。数量に関しては売主にとって比較的容易に判断できるため、このような期待を保護する必要性は低いと考えられております。

 

権利に関する契約不適合

 売買の目的物が権利である場合に、この権利について契約不適合がある場合についても上記の規定が準用されます(565条)。

 権利の契約不適合とは、たとえば土地を購入した際に、その土地に契約に無い他人の賃借権や抵当権などの制限物権が付着していたり、建物を購入したものの、その建物のために契約上では賃借権が設定されているはずが、実際には賃借権が存在していなかったという場合です。購入した土地の一部が他人の所有となっていた場合も同様です。

 このような場合でも目的物の契約不適合として債務不履行責任となるということです。

 

競売における特則

 民事執行法等の規定による競売によって買い受けた場合、その目的物につき、数量や権利に不適合がある場合、債務者に対して解除または代金減額請求ができるとされます(568条1項)。

 債務者が無資力である場合は、配当を受けた債権者に代金の全部または一部の返還請求ができるとされております(同2項)。債務者または債権者が物または権利の不存在を知りながら申し出なかった場合はこれらの者に損害賠償請求ができるとされております(同3項)。

 これらは競売制度に関する特則で、競売制度の信頼の維持と、競売によって取得した物に関する紛争を防止するために担保責任を軽減したものと言われております。そのため、対象となる不適合は「数量」と「権利」に関するものに限定されており、「種類」「品質」については対象外となります(同4項)。

 

まとめ

 旧民法の担保責任の規定は、隠れた瑕疵に限定され、特定物に関しては原則として現状で引き渡せばそれで足りるとされておりました。また、数量指示売買や請負など特有の規定が置かれ、さらに別途債務不履行の規定も併存するなど複雑でわかりにくい制度となっておりました。

 そこで、平成29年大改正でこれらの制度が契約不適合責任に統一されることとなりました。これにより特定物の隠れた瑕疵も数量不足も請負目的物の瑕疵もすべて債務不履行として再構成され、追完請求、減額請求、解除、損害賠償ができるようになりました。

 また余談ですが、特定物については引き渡し前に滅失した場合の危険の負担を買主側が負い、代金債務が消滅しないとする危険負担の債権者主義(旧534条)の規定も削除され、引き渡されて初めて危険が移転することとなっております(新567条1項)。

 前回触れた時効と同様に、顧客や取引先との契約に大きく影響を与える法改正となっております。改正から数年が経過していますが、折に触れて改正点を確認しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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