消滅時効とその援用まとめ
2024/01/17   契約法務, 訴訟対応, 民法・商法, 民事訴訟法

消滅時効とは


 企業と取引先、または顧客や従業員との間で発生する債権・債務も、権利者が権利を行使しないまま一定の期間が経過すると消滅することがあります。これを消滅時効と言います。これにより自社の債務が免れる場合もあれば、多額の債権が回収できなくなる場合もあると言えます。

 時効には、その効果を享受するための援用、またはその効果を妨げる中断方法があり、適切な時期に適切に行使しなければ多大な不利益を被ることもあります。

 今回は消滅時効について、その期間や援用方法、中断方法などについて解説していきます。

 

債権の消滅時効


 従前、民事債権の消滅時効は10年(改正前民法167条)、商事債権の消滅時効は5年(削除前商法522条)となっておりました。平成29年からの民法大改正により時効についても大幅な改正がなされ、この消滅時効期間も変更されております。

 改正後民法166条によりますと、債権は、(1)債権者が権利を行使することができることを知った時から5年行使しないとき、または(2)権利を行使することができる時から10年間行使しないときは時効によって消滅するとされます(1項)。債権または所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅するとなっております(2項)。

 このように改正民法では債権の時効消滅には5年と10年の2つの期間が規定されております。「権利者が権利を行使することができる時」を客観的起算点、「債権者が権利を行使することができることを知った時」を主観的起算点と呼び、基本的に消滅時効は5年となりました。

 これに伴い、改正枚民法170条~174条に規定されていた短期消滅時効の規定と、商法で規定されていた商事債権の消滅時効も削除され、民法の消滅時効に統一されることとなりました。つまり、民事債権も商事債権もいずれも行使できることを知った時から5年、行使できるようになった時から10年となります。

 なお、改正民法の施行は令和2年4月1日からです。この日以降に成立した債権・債務に適用されます。令和2年3月31日までの債権・債務については改正前民法の消滅時効10年が適用される点に注意が必要です。

 

消滅時効の援用


 消滅時効は上記の期間が経過すれば自動的にその効力が発生し、債権が消滅するというわけではありません。民法145条によりますと、「時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない」としております。

 従来時効の効果については、解除条件説と停止条件説で争われてきました。解除条件説は時効の完成によって確定的に効果が生じ、援用は実体法上の形成権行使であるというものです。一方停止条件説は時効の完成によっても確定的に効果は生じず援用によって初めて効力が生じるというものです。判例は停止条件説に立っているとされております(最判昭和61年3月17日)。

 それでは援用とはどのような行為を言うのでしょうか。民法では援用の方法については特に規定を置いておりません。そのため文書や口頭など、どのような方法でも可能と言えます。

 しかし、援用したことを証拠として残すために内容証明郵便で援用通知を送付する方法を取るのが一般的と言われております。また訴訟内で時効援用を主張することもできます。

 

時効援用通知書の記載例


 上記のように時効援用には特に決まった方式や書式はなく、基本的に相手に伝わればどのような方法でも問題は無いと言えますが、以下に時効援用通知書の記載例を挙げておきます。

「前略、貴社と弊社の間の○年○月○日付「金銭消費貸借契約」に基づき、貴社が弊社に対して有していた○○万円の貸付債権は、その支払期日(○年○月○日)から5年以上が経過したため、時効により消滅いたしました。弊社は本書により、当該時効を援用いたしますので、今後は当該貸付債権の請求をなさらないようお願い申し上げます。」


 

消滅時効の完成猶予と更新


 従前の民法では時効の完成を妨げる事由として「中断」と「停止」が定められておりました。中断とはそれまで進行していた時効が一旦リセットされ、ゼロに戻る事由です。停止は一定の中断が困難な事情が生じたことによって、その事情が解消され一定期間経過するまで時効の進行が一時停止するというものです。

 改正後民法は「中断」を「更新」、「停止」を「完成猶予」と文言を改めました。より日本語の本来の意味内容に近づけたものと言えます。

 改正民法147条1項によりますと、(1)裁判上の請求、(2)支払督促、(3)和解または民事調停、(4)破産手続、再生手続、更生手続参加、のいずれかがなされた場合、その事由が終了するまで時効が完成しないとされます。これが時効の完成猶予です。そしてこれらの事由が確定判決、またはそれに準ずるものによって確定したときは、その事由が終了した時点で時効がリセットされます(同2項)。これが時効の更新です。

 なお取り下げなどによって確定せずにこれらの事由が終了した場合は、その終了の時から6ヶ月間猶予されます。

 

その他の完成猶予・更新事由


1.差押え、仮差押、仮処分
 上述した請求以外にも完成猶予・更新事由がいくつか規定されております。まず(1)強制執行、(2)担保権の実行、(3)担保権の実行としての競売、(4)財産開示手続がなされた場合は請求と同様に完成猶予の効果が発生します。そして、これらの事由が適切に終了した場合は時効の更新が生じ、取消等によって終了した場合はその時から6ヶ月の猶予となります。仮差押や仮処分の場合はその事由が終了した時から6ヶ月の更新猶予となり(149条)、改正前と異なって中断の効果は無くなりました

2.承認
 民法152条1項によりますと、「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める」としており、完成猶予を挟まずにいきなり更新の効果が生じます。「承認」とは、時効の利益を受ける者が、権利の存在・不存在について権利者に表示する行為を言うとされます。具体的には債務の一部や利息の弁済、弁済の猶予の懇請などが挙げられます。これらの行為をすると時効が更新されるということです。なお、承認は未成年者や成年被後見人は法定代理人の同意なく行うことができませんが、非保佐人は可能とされます(同2項)。

3.催告
 「催告」を行なった場合も完成猶予事由に該当するとされております(150条1項)。「催告」とは裁判外で債権者が債務者に対して履行の請求を行うことを言います。上述の請求は裁判所を通じたものでしたが、こちらは訴訟等を提起するまでの、いわば、繋ぎの措置と言えます。これを行うことによって6ヶ月間完成が猶予されます。なお、この催告を繰り返して猶予期間を延長するということはできません(同2項)。

4.協議を行う旨の合意
 改正民法では新たな完成猶予事由として、「協議を行う旨の合意」が新設されました(151条)。具体的には当事者間で権利についての協議を行う旨の書面での合意がなされた場合、その時から1年間、時効の完成が猶予されます。この合意は再度行うことができ、当初の時効期間満了予定時から5年を超えない範囲でさらに完成が猶予されます(同2項)。なお、この合意がなされている間に催告を行ってもそれによる完成猶予の効果は発生しないとされます(同3項)。

 

まとめ


 平成29年からの相次ぐ民法大改正では時効も大きく変更された分野の一つと言えます。特に消滅時効ではこれまでの10年という期間が5年に短縮され、細かな短期消滅時効や商事債権の時効規定が削除されたり、また中断や停止といった文言が、より一般的な日本語の意味に近い完成猶予・更新に改められました。

 時効はそれによって債権・債務が消滅することから、債権者にとっても債務者にとっても非常に利害が大きいものと言えます。援用しなければ効果が発生しないことや、完成猶予・更新によってリセットされることなどを正確に把握しておく必要があります。

 例えば、完成前に援用通知書を送付してしまうと、相手方に時効が間近であることを認識され、対処されてしまうといったリスクもあります。また、逆に時効期間を間違うと対処する前に時効が完成してしまうこともあり得ます。
 今一度制度の内容や自社の債権債務について見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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