ゼロから始める企業法務(第20回/法務担当者の選考方法)
2021/11/20 法務採用
皆様、こんにちは!堀切です。
これから企業法務を目指す皆様、念願かなって企業法務として新たな一歩を踏み出す皆様が、法務パーソンとして上々のスタートダッシュを切るための「ノウハウ」と「ツール」をお伝えできればと思っています。今回は法務担当者の選考方法(必要な力量の洗い出しとその見極め方等)について記事にしたいと思います。
「1人法務」から「複数法務」へ
1人法務の会社も、業容の拡大に伴い、今まで1人でこなしていた法務業務を、複数で分担する必要が生じ、2人目、3人目と、法務担当者を増員するフェーズに移ります。法務業務といっても、私の経験でいえば、契約書の起案・審査業務のほか、ガバナンス・内部統制対応としては株主総会・取締役会業務、商業登記、社内規程の制定・改定業務、社内稟議フローの構築、運用等、コンプライアンス対応としては内部通報窓口業務、ハラスメント対応、社内不正対応、労務問題対応、営業秘密・個人情報漏洩問題対応、コンプライアンス研修講師等、業法対応としては資金決済法の届出・報告業務、電気通信事業の届出業務等、知的財産対応としては特許・商標の調査、出願業務、楽曲等の著作物利用報告業務等、イレギュラー対応としては、M&A業務、増資、ストック・オプション等の資本政策等、危機管理対応としては、ユーザーの不正対応、炎上対応、競合からの警告書対応、プロバイダ責任制限法に基づく請求対応、訴訟対応等、多岐にわたります。今まで、1人でこれらの業務にあたっていた担当者にとっては、2人目、3人目の法務担当者が入社することで、負担が分散されるほか、今までより時間を掛けて個々の業務に取り組め、また、ダブルチェック体制を構築することにより、法務業務の質を高めることもできます。それだけに、法務担当者の選考については、必要な力量の洗い出しとその見極め方が重要になります。具体的には、「スキル面」と「マインド面」の2つの観点から見極める必要があります。
1.スキル面
(1)まずは、現在の会社における法務業務を全て書き出します。その中から、「業務量」と「業務の重さ」でランク分けします。例えば、契約書業務であれば「業務量が「多い」」かつ「業務の重さが「中位」」増資であれば「業務量が「少ない」」かつ「業務の重さが「重い」」です。さらにその中から、「現在遅れがちの業務」と「自分の専門外や苦手分野」を選び出します。私の例でいえば、契約書業務が「業務量が「多い」」で「現在遅れがち」かつ、危機管理業務が「業務の重さが「重い」」で「自分の専門外や苦手分野」であることから、「契約書と危機管理ができる人材」が必要、との結論に至りました。
(2)次に、スキル面の見極め方については、可能であれば、業務を行う中で実際にあった事例を基に、事前に簡単な問題を出して、面接前に、または面接時に候補者が持っている知識や対応方法を確認するといいと思います。以下の様な例題が考えられます。
【契約書に関するもの】 (1)有名なキャラクターの絵柄や名称がパッケージに書かれた食品をA社に製造委託します。但し、A社は工場を持っておらず、工場を所有するB社に再委託します。この場合に契約上や法律上注意する点をお答えください。 (2)あるPC向けゲームのIPを利用したスマートフォンアプリ向けゲームを開発したい、当該PC向けゲームを開発したのは法人ではなく、有志で結成した10数名のプログラミング集団によるもので、過去に何名かが入れ替わっているとのこと。この場合に、当該プログラミング集団との契約や法律上注意する点をお答えください。 (3)カリフォルニア州の法人との秘密保持契約で準拠法と合意管轄でもめている。準拠法と合意管轄をカリフォルニア州にするリスクと、回避策について、お答えください。 |
【商事法務に関するもの】 代表取締役より、取締役会と株主総会を書面決議で済ましたいとの要望がありました。あなたから、書面決議のメリットとデメリットや法令上、定款上注意するべきことについて、お答えください。なお、当社は株主2社の合弁で、出資割合は50:50、取締役は各社から3名ずつ派遣されているものとします。 |
【業法や業界特有のイシューに関するもの】 事業部より、新規のスマートフォンアプリ向けゲームタイトルを開発するとの告知がありました。あなたから、事業部に対して説明をしなければならない、法令とアプリの規約上、注意するべきことについて、お答えください。 |
この様な例題に答えていただくことで、候補者が持っている知識や経験等のスキルを、より具体的に把握することが可能になります。
2.マインド面
スキル面より重要なのがマインド面です。まずは、入社後は同僚または部下として頻繁にコミュニケーションを取るとこになるので、「一緒に働きたい」と思える人柄かを見極める必要があります。
短い面接時間のなかで人柄を見極めるのは非常に難しいですが、方法としては、あえて10分程度、雑談の時間を設けるだけでも、候補者がどの様な人柄の方かを、つかみやすいと思います。
次に、会社のカルチャーや風土とマッチする人材かを見極める必要があります。これについては、ミッション、ビジョン、バリューについてどの様に思うか、等の、会社の経営哲学についての質問をすることで、ある程度はつかめるかと思います。
最後に、法務のマインドとして「攻め」の方か「守り」の方かを把握する必要があります。これについては、シンプルに「法的にクロな案件については、どの様に取り扱いますか?」と質問すると良いと思います。「攻め」の方であれば、「グレーからシロに近づける様に検討します。」「クロでもそれによるペナルティや会社が被る損失の程度を調査します。」等の回答があります。「守り」の方であれば「法務として法令違反は許容できないので、例え役員でも理由をしっかり説明して説得します。」と答えるでしょう。採用の目的に応じて、例えば新規事業にあたり法的なリスクを整理したいのであれば「攻め」の方、コンプライアンスやガバナンス強化であれば「守り」の方を採用すると、良いと思います。
入社後のミスマッチを避けるために
採用活動において一番避けなければならないのは、入社後のミスマッチです。候補者にとっては、短期での離職により経歴に傷がついてしまいますし、会社にとっては、採用コストが増加し、会社の評判も下がり、お互いが不幸になってしまいます。
入社後のミスマッチが生じる原因は、候補者、会社の双方にありますが、会社側が原因のミスマッチについては、面接官が「会社の現況」、「事業の予測」や「待遇面」の実態や想定の「良いところ」だけを話してしまうことで、生じるかと思います。
そもそも課題があるから採用活動をしているのであり、全てがバラ色の会社や事業はあり得ません。会社や事業の良いところだけではなく、現状や将来の課題についても真摯に話をしたうえで、納得いただいた方に入社いただくべきです。
待遇面についても、候補者が短期の昇給や昇進を期待してしまうようなトークは避けるべきでしょう。
なお、採用活動においては、候補者と会社の関係は50:50です。会社も候補者から「選考」されていることを忘れてはならないと思います。
いかがでしたでしょうか。皆様がこれから取り組む業務に少しでもお役に立てるヒントがあれば幸いです。
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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。
【筆者プロフィール】
私立市川中学校・高等学校、専修大学法学部法律学科卒業。
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