ゼロから始める企業法務(第10回)/法務研修
2021/11/10 法務部組織
皆様、こんにちは!堀切です。
これから企業法務を目指す皆様、念願かなって企業法務として新たな一歩を踏み出す皆様が、法務パーソンとして上々のスタートダッシュを切るための「ノウハウ」と「ツール」をお伝えできればと思っています。今回は法務研修についてお話いたします。
法務研修が重要な理由
多くの会社では、入社時や年に1~2回、役職員向けの研修が設けられており、その中に、コンプライアンス、ハラスメント防止、契約書、知的財産、インサイダー取引防止や個人情報保護に関する研修(以下総称して「法務研修」とします)が含まれているかと思います。
法務研修を実施することで、役職員のコンプライアンス意識や法的リテラシーが高まり、不祥事発生リスクを低減する効果があります。また、万が一、役職員による不祥事が発生した場合でも、定期的に法務研修を行っていたことが、会社が「不祥事防止のために合理的な措置」を取っていた証拠となり、会社と役員の過失責任を回避する効果があります。さらに、当該不祥事の当事者である役職員に対しても、過去に法務研修を受講していたことが、懲戒処分を課す理由にもなります。
この様に、法務研修は役職員だけでなく、会社を守ることにも繋がる、重要な研修となります。
法務パーソンにもメリットが
法務研修を実施するメリットは、講師となる法務パーソンにもあります。
大勢の前でプレゼンするスキルを磨くことは、ビジネスパーソンとして価値の向上に繋がるかと思います。日常業務ではドキュメントと向き合う時間が長く、人前で話す機会が少ない法務パーソンにとって、法務研修の講師を務めることは、自らのプレゼンスキルを磨く絶好の機会となります。また、特に入社時研修の講師を務めることで、自らの「顔」を売ることもできます。新入社員の方が法務相談をしたいときに、真っ先に浮かぶのが講師の顔になりますので、早期に人間関係を築けるきっかけにもなります。研修の場で丁寧かつ分かり易い説明をすることで、多くの役職員に、頼りになる法務パーソンのイメージを持ってもらうこともできます。
この様に、法務研修の講師を務めることは、法務パーソンの価値向上のために、とても有益かと思います。
法務研修のポイント
それでは私の経験から、入社時のコンプライアンス研修と契約書研修を例に、法務研修を実施する際に気を付けるポイントを、いくつか紹介いたします。
●研修資料の作成
研修の場では資料をプロジェクタ等で投影するのが一般的かと思いますので、研修資料はPower Point(PPT)で作成します。法務が普段文書を作成するWordの感覚でPPTの資料を作ると、どうしても文字数が多くなり、文字のサイズも小さくなってしまいますが、投影するスライドの文字数は可能な限り少なく、文字のサイズは大きい方が見易くて良いです。
さらに、文字だけでなく図を多用したり、アニメーションで動きを付ける等の工夫をして、シンプルで分かり易い資料の作成を心掛けると良いと思います。また、研修の場で話したいことはPPTの「ノート」に記載して置けば、スライドの文字量を削減でき、かつ研修の場でセリフが飛んでしまった際に参照できて良いかと思います。
なお、スライド1枚を説明する時間は、3分が目安になりますので、30分の研修であれば、資料はスライド10枚程度にまとめる必要があります。伝えたいことが多く、その結果資料が膨大な量になった場合は、資料の最後に、研修の場で説明する時間の無いスライドを「Appendix」としてまとめて置くと良いと思います。
●研修の要領
セオリーとしては、総論から始め、各論に移っていく方法を取ると良いと思います。
コンプライアンスであれば、まずは概念を説明し、次に著名な事例を挙げ、最後に社内でコンプライアンス違反を発見した場合の具体的な対応方法等について説明していきます。「著名な事例」については、コンプライアンス違反の事例はWebで検索すれば枚挙に暇がないので、それだけでなく、不祥事の際にコンプライアンスを重視した対応を取った結果、社会から高い評価を得た「良い事例」も挙げて説明すると、コンプライアンスに基づく対応とはどの様なものかを具体的にイメージすることができ、良いと思います。
契約であれば、そもそも契約とは何か、どの様な法的効果が生じるのかを説明した後、実際に会社で使用しているひな形を基に、主要なチェックポイントを幾つか説明していきます。なお、意外と喜ばれるのが「実印、契約印と角印の使い分け」「消印、割印、契印の違い」「契約書の製本方法」「訂正印の押し方」「適切な契約締結日の考え方」「契約書審査や押印申請の起案方法」等の、細かな手続面や社内ルールの説明です。これらを入社時研修で説明しておけば、新入社員の方にとっては、社内のルールや業務フローに早く慣れるための手助けになりますし、法務にとっても、個別の業務相談に対応する工数を削減でき、お互いにメリットがあると思います。
いかがでしたでしょうか。皆様がこれから取り組む業務に少しでもお役に立てるヒントがあれば幸いです。次回は、法務相談の対応方法について、記事にできればと思います。
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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。
【筆者プロフィール】
私立市川中学校・高等学校、専修大学法学部法律学科卒業。
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