ゼロから始める企業法務(第19回/法務メンバーの人事評価方法)
2021/11/19 法務部組織

皆様、こんにちは!堀切です。
これから企業法務を目指す皆様、念願かなって企業法務として新たな一歩を踏み出す皆様が、法務パーソンとして上々のスタートダッシュを切るための「ノウハウ」と「ツール」をお伝えできればと思っています。今回は人事評価の際に法務マネジャーがメンバーに対して目標を設定し、評価する方法について記事にしたいと思います。
定量的目標
他のバックオフィス業務に関する職種(財務、経理、人事、総務、労務、IR等)と同様、法務は定量的な目標の設定や、評価をするのが難しい職種です。理由は、法務業務の多くは、こなした件数と会社の業績に関連性が無いし、そもそも法務が意識的に件数をコントロールできないからです。例えば、契約書の件数や株主総会、取締役会の頻度が多かった時期があっても、それはたまたま多かっただけだし、それが会社の業績を左右することも、あまり無いかと思います。但し、以下の3つについては、定量的な目標の設定や、評価をすることが可能で、その意味もあると考えられます。
(1)契約書の返答納期
商取引は原則、契約書を締結しないと開始できません。契約書の確認に時間が掛かってしまうと、取引の開始遅延や、売上案件であれば、売上が期ずれした結果、請求も遅れてしまい、キャッシュフローに悪い影響を与えることもあります。逆に契約書の返答納期を短縮できれば、迅速な取引の開始に寄与し、ビジネスに貢献することができます。ただし、納期短縮を先行させるあまり、品質が落ちることは避けなければならないので、別途、契約書起案時のチェックリストや審査時の基準を設けて、チーム内で運用していくと良いと思います。
(2)特許の出願件数
知財戦略は、競合に対する競争優位性を保つために重要です。先願主義であることから、出願の早遅が会社の業績を左右することもあります。特許については、革新的な技術開発だけでなく、通常社内で行われている、製品や技術の改良についても、特許性の要件である「新しい構成を有すること」と「新たな効果を奏すること」の2つを満たせば、権利化が可能です。多くの会社では、社内に多くの特許性がある技術や製品が埋もれている可能性がありますので、それを「掘り起こす」ことは、定量的な目標として設定できると思います。
(3)コスト削減
当たり前ですが、コスト削減は会社の利益に直結します。売上では会社に貢献できない法務にとって、コスト削減は会社の利益に貢献できる方法の1つです。例えば、Legal Techツールの導入による工数の削減、電子契約ツールの導入による印紙税の削減、減資の実施による外形標準課税の削減、業務の一部内製化や顧問先、業務委託先の再考によるプロフェッショナルフィーの削減等、法務から提案できるコスト削減方法も数多くあり、いずれも定量的な評価が可能かと思います。
定性的目標
定性的目標については、会社のミッション・ビジョン・バリュー(MVV)に沿った目標を定める方法と、期初に定める全社Objective(目標)とKey Results(主要な結果)いわゆるOKRに沿った目標を定める方法が考えられます。MVVを通期の目標、OKRを四半期の目標にする等、組み合わせて使うと良いと思います。
(1)MVV
例えば、会社が定めるミッションが「社会に価値を提供する」であれば、法務のミッションは「法務として会社に価値を提供する」、会社が定めるビジョンが「社会に必要とされる企業になる」であれば、法務が定めるビジョンは、「全社員から必要とされる法務となる」、会社が定めるバリューが「ユーザーファースト」であれば、法務が定めるバリューは、「ビジネスファーストを常に意識する」等、MVVとリンクする目標を設定すると、会社が目指す姿とも目線が合い、良いと思います。
(2)OKR
会社が期初に定めるObjectiveを達成するために、法務がやらなければいけないことは何かを考え、それを目標に設定すると良いと思います。例えば、会社が期初に定めるObjectiveが「新規ビジネスの成功」であれば、法務としては、「新規ビジネスに関する契約書の内容を迅速に取りまとめ、締結する」、「新規ビジネスに関する法的リスクを洗い出し、対策を立て、実行する」等、「顧客満足度の向上」であれば、法務としては、「顧客と会社間のトラブルを減らすための「サービスガイドライン」を事業部と共に作成する」、「従業員のコンプライアンス意識向上のための研修を企画し、開催する」等、全社のObjectiveとリンクする目標を設定すると、事業の方向性とも足並みがそろい、良いと思います。
評価方法
以上のとおり、期初にメンバーごとの定量的、定性的な目標を定めたうえで、期末に設定した目標の達成状況に応じた評価を行います。目標のハードルについては、ある程度ストレッチしたものを定めておき、70~80%の達成度でA(目標達成)評価、100%以上の達成度でS(目標を大きく上回る成果を達成)評価とすると、100%の達成度でA評価とするよりも、メンバーのモチベーションを上げる効果があると思います。また、その他にも、加点、減点する場合を定めておいた方が良いです。例として、以下の方法が考えられます。
(1)加点する場合
会社が事業を運営する中で、訴訟等の法的なトラブル、社内不正、ハラスメント、情報漏洩、所轄官庁からの立入検査対応、増資やストック・オプション、合併、分割、株式交換等の組織再編、M&A等、また、上場会社であれば、株式分割や自己株式の取得等、期初には想定できなかった事象やコーポレートアクションが往々にして発生します。そういったイレギュラー案件に積極的に取り組み、クロージングまで粘り強く対応した場合は、会社に貢献したことを評価し、加点するべきだと思います。
(2)減点する場合
ビジネスサイドをはじめとする他部署や、法務内の他の同僚との摩擦やトラブルがあった場合は、減点の評価をするべきです。会社とは、チームで成果を上げる組織であり、一人で出来る仕事は1つもありません。チームで仕事をするためには、日頃から上司、同僚、部下に感謝と敬意の気持ちを持って接することが大切です。たとえ、自己の主張や論理が正しかったとしても、それを他者に押し付けたり、大勢の前で論破する等、スタンドプレーに走って和を乱す様な行為があれば、厳しく戒める必要があります。
企業法務における「ハイパフォーマー」とは
最後に、企業法務において常に高い評価を受ける「ハイパフォーマー」について、私見を述べます。私は、企業法務における「ハイパフォーマー」とは、法的知識や技術がある者や、迅速的確に法的リスクを指摘できる者でもなく、「法的知識や技術を用いて案件を前に進めることができる者」と考えております。企業は経済合理性に基づいて活動しており、経済合理性(利益)を得るためには、目の前の案件1つ1つを前に進める必要があります。法的知識や技術は、書籍や弁護士等の外部専門家から得ることができる、ツールの1つに過ぎません。また、法的リスクを指摘するだけでは、「で、解決策は?」と聞かれるだけです。社内に評論家やコンサル、アドバイザーは要りません。必要なのは、事業部、外部専門家、ひいては経営陣を巻き込んで、案件を前に進めることができる人材です。そう考えれば、法務が企業内で高い評価を受けるために必要なことが、自ずと見えてくると思います。
いかがでしたでしょうか。皆様がこれから取り組む業務に少しでもお役に立てるヒントがあれば幸いです。
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本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。
【筆者プロフィール】
私立市川中学校・高等学校、専修大学法学部法律学科卒業。
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