民法改正~瑕疵担保責任、債務不履行責任から契約不適合責任へ~
2017/08/02   契約法務, 民法・商法, 法改正, その他

はじめに

 当サイトでは、従来より本年5月に成立した改正民法について報知してきました(民法債権法の改正のポイントと改正時期民法改正 敷金の取扱いについて)。
 改正点は200箇所以上に渡ると言われていますが、今回は企業の法務担当者様向けに瑕疵担保責任に関する改正点について検討していきたいと思います。

従来の瑕疵担保責任の問題点

 売買の目的物に買主の気づかない欠陥がある場合に、売主の負う責任を瑕疵担保責任といいます(民法566,570条)。この場合、買主は契約の解除,損害賠償請求ができます。
 ここで重要なのは、瑕疵担保責任が商品が特定物である場合に適用される制度であることです。特定物とは、当事者が物の個性に着目して引渡しの対象としたものを指します。代替の利かないもの、例えば絵画や不動産、中古車,中古パソコンなどが該当します。
 では、中古パソコンを購入した場合、購入後に故障が判明した場合に買主は売主に何が請求できるでしょうか?
 上記の瑕疵担保責任について定める現行民法566条からすると、解除による全額返金、故障がないと信じて払った代金と故障のあるパソコンの市場価値との差額(信頼利益といいます)の損害賠償請求が考えられます。一方で、条文に定めのない修繕請求できません。
 他方でパソコンが新品である場合、そのパソコンは代替可能であるため特定物にあたらず(このような場合を不特定物と呼びます)買主は売主に対して損害賠償請求ができます(民法415条)。損害賠償の範囲も上記の信頼利益にとどまらず、故障のないパソコンを受け取っていれば手に入っていたはずの利益(履行利益)も含まれます。
 このように、特定物か不特定物かという商品の種別によって、買主の保護される範囲が異なってくる点が現行民法の問題点のひとつと言われてきました。
 以上のような背景のもとで、改正民法では「契約不適合責任」という制度が導入されるに至りました。

瑕疵担保責任、債務不履行責任から契約不適合責任へ

 契約不適合責任とは、目的物が「契約の内容に適合しないものである場合」(民法(債権関係)の改正に関する要綱案 50頁)、すなわち実際に給付された目的物と契約内容との間にズレがある場合に売主が負う責任です。 
 この場合、目的物が特定物であるか不特定物であるかを問いません。
 契約不適合責任を設けた改正民法では、買主は売主に対して
①履行の追完請求(改正民法562条)
②代金減額請求(改正民法563条) 
③損害賠償請求(改正民法564条)
④解除権の行使(改正民法564条)
が出来ることとなりました。
 さきほどの例に照らせば、故障している中古パソコンの買主は現行法で可能な、解除権の行使のほか、パソコンの修繕と代金の減額請求もできるようになります。また、代金の減額請求は実質的に従来の信頼利益に対する損害賠償を意味するので、改正民法564条における損害賠償請求には履行利益も含まれるとする見解が有力です。

まとめ

 上記の通り、現行法でも特定物の売主が任意に追完請求に応じることが禁止されているわけではありません。たとえば中古車自動車業界では多くの企業が「○○認定U-CAR」や「△△認定中古車制度」などの名称で、各社が独自に販売した中古車の性能を「保証」するシステムを設けています。
 このような企業は現時点で買主からの「追完請求」に応じており、改正民法の施行によって実質的に新たな義務が生じることはなさそうです。
 また、交換や修理といった追完の方法が買主の希望と対立した場合、無条件で買主の希望が優先されるわけではなく「買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすること 」ができます(改正民法562条第1項)。一品ものの骨董品や、量産品であってもクラシックカーのように補修用部品の確保が難しいものの場合は修理は困難であり、そのような買主の事情に配慮した条項と解されます。
 改正民法は2020年までに施行される見通しです。
 買主とのトラブルを防止する方法として、法務担当者は自社の扱う製品の特性を確認した上で、買主に対しどのような「追完」が可能であるか検討し契約書に明記することも考えられます。
 下記関連サイトに法務省の「民法(債権関係)の改正に関する要綱案 」および「民法の一部を改正する法律案 」もありますので、ご参照ください。

関連サイト

民法(債権関係)の改正に関する要綱案
民法の一部を改正する法律
民法の一部を改正する法律案新旧対照条文

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