違法長時間労働でアクセンチュアを書類送検、36協定手続きについて
2022/03/15 労務法務, 労働法全般
はじめに
東京労働局は8日、社員に違法な長時間労働をさせていたとして、コンサルティング大手の「アクセンチュア」を労基法違反の疑いで書類送検していたことがわかりました。過労死ラインを超える長時間労働の実態と共に、36協定手続きにも不備があったとのことです。今回は、昨年4月より新様式に変更となった労働基準法の36協定手続きについて見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、アクセンチュア本社に所属するソフトウェアエンジニアの社員に昨年1月3日~30日にかけて法定労働時間である週40時間を超えて、計143時間余りの残業をさせていた疑いがあるとされます。同社では、月100時間未満の残業を可能とする特別条項付き36協定を締結してはいたものの、不備があり無効であったとのことです。同社には労働組合は無く、社員の代表が会社側と協定を締結していたとされます。同社には約1万8千人の社員が在籍しており、大半が本社勤務とされ、法令を遵守しながら働き方改革に取り組んでいくとしております。
労基法の労働時間規制
労働基準法32条によりますと、労働者の労働時間は1日8時間、週40時間が上限となっております。この法定労働時間を超えて労働させるためには時間外労働・休日労働に関する協定を締結する必要があります(36条)。労基法36条に規定されていることから一般に「36(サブロク)協定」と呼ばれております。この協定を労使間で締結し所轄の労基署に届出る必要があります。この規定に違反して時間外労働をさせた場合、罰則として6ヶ月以下の懲役、30万円以下の罰金が規定されております(118条1項)。それでは以下具体的に36協定について見ていきます。
36協定の手続き
36協定は「使用者」と「労働者の代表」とが締結することになります。ここに言う「労働者の代表」とは労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者を言います。労働者の過半数を代表する者の場合、その者は部長や工場長、支店長などの管理・監督の地位にあるものであってはならないとされます。またその選出にはその旨を明らかにして実施された投票や選挙等の民主的な方法による必要があります。そして36協定は本社、支社、支店、営業所などそれぞれの事業場ごとに締結する必要があります。締結された36協定は所轄の労働基準監督署に届出たうえで作業場の見やすい場所への掲示や備え付け、書面の交付などの方法により労働者に周知する必要があるとされます。
新様式の36協定
36協定は昨年令和3年4月1日から新様式に変更となりました。以前は労使間での協定締結の際に使用者と労働者側が署名または記名押印する必要がありましたが新様式では不要となりました。また労働者の過半数代表と締結する場合には、その者が管理監督者ではないこと、36協定締結のための代表選出である旨を明らかにした上で投票等の方法で選出されること、使用者の意向に基づいて選出されたことを確認するためのチェックボックスが新設されました。さらに総務省のポータルサイト「e-Gov」にアカウント登録することによって全ての事業場の36協定を一括で届出ることができるようになっております。新様式の協定届については以下のサイトを参照ください。
【外部リンク】東京労働局 時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)
コメント
本件でアクセンチュアでは36協定の締結手続きに不備があったとされます。詳細は不明ですが同社には労働組合が無く社員の代表者が会社と締結していたとのことです。上記のように労働者の過半数を代表する者が締結する場合、その者は管理監督者でないこと、民主的な方法によって選出されたことなどの要件があり、同社ではこれらの要件を満たしていなかったのではないかと考えられます。以上のように会社の従業員を法定労働時間を超えて労働させるためには36協定の締結と届出が必要です。締結や記載にも一定の様式が定められており適式なものでないと無効となります。コンプライアンス整備などに手が回らない小規模な会社では36協定自体が存在しない場合もまだまだ多いと言われております。今一度自社の協定手続きについて見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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