家族の病気を理由とする異動拒否で解雇、無効判決

はじめに

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)の職員だった50代の男性が、妻の病気を理由に異動を拒否して懲戒解雇されたのは不当であるとして解雇の無効と地位の確認を求めていた訴訟で大阪地裁は7日、解雇の無効を認めました。今回は従業員への懲戒権の限界について見ていきます。

事案の概要

報道などによりますと、同センターに勤務していた男性は2016年2月に大阪府内の他の病院への異動が命じられました。しかし男性は妻がうつ状態であり、夫の勤務先や勤務内容が変わると不安感が強まり、異動内示後は死にたいと望むほどに悪化したとして、医師の診断書を提出して異動の撤回を求めたとされます。同センターは撤回を認めず懲戒解雇となったとのことです。男性は解雇の無効と地位の確認を求め大阪地裁に提訴していました。

雇用主の懲戒権

労働契約法15条によりますと、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、…労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は懲戒権の濫用として無効となるとしています。ここで使用者が労働者を懲戒することができる場合とは、判例によりますと就業規則で懲戒事由と懲戒処分の内容が定められている場合を言うとされます(最判平成15年10月10日)。その上で合理性と相当性が認められることが必要です。

懲戒処分の適法要件

(1)客観的合理性
懲戒権を行使するためには上記のとおり就業規則で予め定められていなければなりません。そしてそれに基づくとしても、懲戒を行うことが合理的でなくてはなりません。たとえば懲戒事由に該当する疑いがある、噂があるといった不確実な段階で懲戒処分を行うことは合理性が認められません。また懲戒処分後に別の懲戒事由が見つかった場合でも、その新たな事由を処分理由に追加することも合理性は認められないことになります(最判平成8年9月26日)。

(2)社会的相当性
懲戒処分を行うことに合理性が認められたとしても、処分内容が社会通念上相当なものでなければなりません。この相当性に関しては非違行為と処分が比例していなくてはならないという点と、適正な手続きがなされたかという点に分けられます。まず前者については処分内容が行為に比べて重すぎてはならないということです。軽微な違反に対し懲戒解雇とするなどが相当性を欠く典型例と言えます。この判断に際しては①非違行為の内容、程度、②当該企業での前例、③他の従業員の例との比較などから判断すると言われております。そして適正な手続きとは、懲戒処分を行うにつき、その従業員に弁明の機会などを設けたかということです。従業員の意見聴取や反論の機会を与えず、問答無用で処分した場合は適正手続き違反となり相当性を欠くことになります。

コメント

本件で大阪地裁は、同センターが命じた他の病院への異動命令は、別の病院への「転籍出向」に該当し一方的な異動命令は無効であるとしました。また男性の妻の症状は重く、不当な動機による異動拒否には当たらないとしました。転籍出向とは、また元の職場に戻ることを前提とした在籍出向とは異なり、転籍元との雇用関係は終了し、新たに転籍先に就職する出向を言います。これには従業員も含めた三者の合意が必要とされます。また不当な拒否では無いことから処分に合理性は無く、処分内容も懲戒解雇という最も重いものであり、相当性も認められなかったものと考えられます。近年裁判所は解雇や非正規の待遇、労災認定、パワハラ、過重労働など労働関係訴訟で相次いで企業側の違法を認める判決を出しており、労働者保護への動きが強まっているように思われます。懲戒処分を行う際には上記要件を念頭に慎重に意見聴取の上検討することが重要と言えるでしょう。

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2002年 第一東京弁護士会 登録替 長島大野常松法律事務所
2004年 外立総合法律事務所
2012年 株式会社カービュー コーポレートリーガルアドバイザー    
2016年 法務室長
2018年 AYM法律事務所開設

弁護士会活動(2018年2月現在)
日本弁護士連合会 ひまわりキャリアサポート 委員
第一東京弁護士会 業務改革委員会 委員 

企業法務を中心とした法律事務所に長年勤務した後、2012年からインターネット系企業の法務責任者としてプラットフォームを利用したメディア・コマースビジネスについてのさまざまな法律問題をサポート。
2018年にAYM法律事務所開設 代表弁護士

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立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、を歴任し、現職。
*企業名は当時のまま。
※日本企業・外資系企業双方で通算30年以上の企業法務・国際法務の経験を有する現役の企業法務責任者です。
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