今、内部通報制度が東芝を揺さぶる

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内部通報が東芝を動かした

 東芝は8月31日、予定していた2015年3月期決算及び有価証券報告書の提出を延期すると発表した。東芝の発表によれば、「複数の国内・海外子会社において会計処理の適切性について調査が必要となる事象が新たに発生し」たという理由が挙げられているが、その背景には、不適切会計を告発する従業員の内部通報や監査法人の監査が多数あったという。
 第三者委員会が7月20日に提出した報告書においては、東芝内で内部通報制度が十分活用されていないことが指摘されていたが、その後現在に至り内部通報がさかんに行われていることはどういう意味を持つのだろうか。

内部通報制度のポイント

 内部通報制度とは、従業員が企業の不正・問題点を通報する制度のことである。コンプライアンス強化を目的として、いわゆるCSR事業の一つとして制度を設けている企業も多い。
 東芝においては、2000年1月に内部通報制度を設け、メールや電話などによって従業員からの通報を受け付けていた。 2006年4月には、物品の調達、工事発注などの取引に関連した従業員のコンプライアンス違反を防止するために、取引先から通報を受け付ける制度も取り入れていた。その一方、内部通報の件数については年に61件(2013年度)と、従業員数の多い大企業としては少ないようにも感じる。この点が第三者委員会から指摘されているのだろう。
 内部通報制度が機能すれば、自浄作用がはたらき不正を早期に、あるいは事前に抑止することができるはずである。東芝の内部通報制度自体は他の企業と比べても見劣りしない、十分なものであった。しかしこの制度が十分に活用されていなかった。

制度の実情

 この点を考えるにおいては、内部通報制度が実情どのように扱われていたのか、という点が重要となるだろう。
 興味深い事例に、オリンパスにおける内部通報事件(東京高裁平成23年8月31日判決)がある。これは、内部通報を行ったことに対する報復人事がなされたとして従業員から配転無効及び損害賠償を請求する訴訟が提起されたものであった。内部通報の守秘義務が守られず通報者が不利益を被ったというケースである。
 このケースでも内部通報制度自体は存在していた。しかし、現実には十分な管理体制が敷かれていたとはいえず、通報すれば何らかの不利益を被るというデメリットが存在していたのである。
 つまり、制度が設けられていること自体では、直ちに内部通報制度が自浄作用をもたらすとはいえない。実際には形式だけの制度となっていないか、その時々の企業風土に密接に結びつくものとして考えなければならないのである。

内部通報増加の背景とは

 そうすれば、今回の東芝の内部通報の増加は、企業内の風土の変化という点に原因を求めることができるかも知れない。
 風土の変化の原因は様々考えられる。この度の不正会計処理の発覚を契機として、第三者委員会が立ち上がり内部通報制度の利用を促したということ、不正を糾弾する世論が増え社内の倫理より社会の倫理を優先しようと考える者が現れたこと、あるいは企業政治の変革を察知し、言わば不正を働いた「沈みかかった舟」の追い出しをはかる派閥が現れようとしているのかも知れない。それらが渾然一体となって、内部通報が許容される「雰囲気」が生じ、これまで抑圧されていた報告が一挙にあがったのではないだろうか。
 同じ内部通報制度を設けていたとしても、企業の風土の変化によってその有効性は変化する。今後の内部通報制度は、このことを認識した上で、企業の風土に影響されない独立した強固な制度を設計する必要があるのではないだろうか。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約3年10ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
 
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中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
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外資系法務本部長、駒澤大学法科大学院、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師
元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒

編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

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