三田市民病院、残業代8300万円未払いで是正勧告/管理監督者とは?
2026/03/09   労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 医療・医薬品

はじめに

兵庫県三田市の「三田市民病院」が職員の時間外手当の未払いがあったとして昨年9月に伊丹労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがわかりました。未払い額は計8300万円に上るとのことです。今回は労基法の管理監督者について見直していきます。

 

事案の概要

報道などによりますと、三田市民病院ではこれまで課長級と次長級の看護師、放射線技師や薬剤師など医療技術者あわせて41人を“管理監督者”とし時間外手当の支給対象外としていたとされます。

しかし、職員からの相談を受けた伊丹労働基準監督署が現場での勤務実態などを調査したところ、実態として管理監督者に与えられるべき権限が与えられていなかったといいます。そこで、伊丹労働基準監督署は、当該職員らは労基法の“管理監督者”に該当しないとして昨年9月に是正勧告を出していたとのことです。

病院側は2022年8月までの未払い分合わせて約8300万円を支払うとした上で補正予算案に計上し今月4日の市議会で可決されたとされています。

 

労基法の規制

労働基準法では労働者の労働時間や休憩時間などについて厳格な規制を置いています。
まず、使用者は労働者に1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないとされており(32条1項、2項)、それを超えて労働させるには労使協定を締結して労基署に届け出る必要があります(36条)。これを一般にサブロク協定と呼びます。

また、時間外労働や休日労働、深夜労働をさせた場合には割増賃金の支払が必要となります(37条1項)。

従業員の労働時間が6時間を超える場合は最低45分、労働時間が8時間を超える場合は最低1時間の休憩を労働時間の途中に与える必要があるとされています(34条1項)。そして、この休憩時間は原則として一斉に与える必要があり、休憩時間中は従業員の自由にさせなければなりません(同2項、3項)。

加えて、使用者は従業員に対して毎週最低1日、4週間で4日以上の休日を与える必要があります(35条1項、2項)。そして、休日に労働させるためにもやはり労使協定を締結して労基署に届け出ることとなり(36条1項)、割増賃金も発生します(37条1項)。

 

管理監督者とは

上記のように労働基準法では従業員の労働時間や休憩、休日について厳格な規制が置かれていますが、これらの規定は「監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」に対しては適用除外となるとされています(41条2号)。それではこの労基法の「管理監督者」とはどのような場合に認められるのでしょうか。

厚生労働省のHPでは、「管理監督者」とは労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者を意味し、名称にとらわれず実態に即して判断すべきものとされています。

そして、その判断基準としては、
(1)当該者の地位、職務内容、責任と権限からみて、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあること
(2)勤務態様、特に自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること
(3)一般の従業員に比してその地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)上の処遇を与えられていること

が挙げられています。

 

管理監督者に関する裁判例

管理監督者に関する裁判例としてハンバーガーチェーン店の店長が自身は該当しないとして会社側に過去2年分の割増賃金の支払を求めた事例が存在します。

この事例で裁判所は、店長の従業員の採用や育成、シフト決定、販促活動の企画などの権限を認めつつも、それらはあくまで店舗内に限られており企業経営上の必要から経営者と一体的な立場で重要な職務権限が付与されているとは言えないとしました。
また、店舗で自らシフトマネージャーとして勤務しており労働時間に関する裁量性も無く、待遇も十分ではないとして管理監督者には該当しないとしました(日本マクドナルド事件東京地裁平成20年1月28日)。

一方で、管理監督者に該当すると認められた事例として、医療法人の人事課長として看護師の募集業務に従事していた従業員が同法人に対し割増賃金の支払を求めた例があります。

この事例では、自身の出退勤についてタイムカードを打刻すべき義務を負わされていましたが、それは拘束時間の長さを示すにとどまると判断され、その他、

・看護師の採否の決定や配置等の労務管理について経営者と一体的な立場にあったこと
・実際の労働時間に対する裁量が認められていたこと
・待遇も責任手当や特別調整手当が支給されていたこと

などから“管理監督者”に該当するとされました(医療法人徳洲会事件大阪地裁昭和62年3月31日)。

 

コメント

本件で伊丹労働基準監督署は三田市民病院で管理監督者として扱われていた医療従事者41人について、「実態として管理監督者に与えられるべき適切な権限が与えられていなかった」として同病院に是正勧告を出していたとされます。

詳細は明らかにされていませんが、従業員の募集や採否、労務管理等についての決定権限といった経営者と一体的な立場と言えるほどの権限が付与されていなかったものと考えられます。従業員には順次未払い分の支払いがなされるとのことです。

以上のように労基法の「管理監督者」とは経営者と一体的な立場の権限や待遇が与えられ、労基法上の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要性が認められる者を指します。単に店長や課長といった役職が与えられているだけでは該当しないといえるでしょう。

自社で管理監督者に該当する者を置いている場合はこれらの要件に該当するかを見直しておくことが重要といえるでしょう。

 

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