「患者からのクレームの多さ」を理由とした懲戒解雇は無効 ー東京地裁
2026/01/28 労務法務, ハラスメント対応法務, 労働法全般

はじめに
山梨県の市立病院で理学療法士として働いていた男性(44)が「患者からのクレームが多いことを理由として懲戒解雇となったのは不当」として処分の取消などを求めていた訴訟で27日、東京地裁は病院側が行った解雇を無効と判断しました。 合理的理由を欠くとのことです。
事案の概要
報道によると、山梨県上野原市の市立病院で理学療法士として働いていた男性は、患者からの「治療中に席を外すことが多い」などといったクレームの多さを理由に2023年に懲戒解雇となったとされます。
男性はクレームの詳細について上司から説明を受けておらず、懲戒解雇となったのは不当だとして病院を運営する、地域医療振興協会(東京)を相手取り、処分の取消などを求めて東京地裁に提訴していました。
懲戒解雇とは
訴訟のきっかけとなった病院側の懲戒解雇。懲戒解雇とは、従業員が重大な規律違反をしたことを理由として当該従業員を制裁として解雇することをいいます。
一般的に、職場での横領や贈賄、重大なハラスメント行為などを理由に行われることが多いとされています。
懲戒解雇は普通解雇よりも非常に重い処分であり、
・退職金の減額や不支給
・解雇予告手当の不支給
・失業保険の受給に際しての不利益
などが生じるケースもあります。また、転職や再就職で不利になりやすいという側面もあります。
従業員に対して行われる“懲戒処分”には、(1)厳重注意を言い渡す「戒告」、(2)賃金の50%を超えない範囲で減額する「減給」、(3)一定期間の出勤をさせない「出勤停止」、(4)「降格」、(5)諭旨の上で退職を勧告する「諭旨解雇」、そして(6)「懲戒解雇」があります。
懲戒処分の中でも、もっとも重い「懲戒解雇」については、認められるための要件や手続きも重いものとなっています。
懲戒解雇の要件
一般に「懲戒解雇」が有効と認められるためには、
(1)懲戒解雇の根拠規定が就業規則に記載されていること
(2)解雇権の濫用に当たらないこと
(3)適正な手続きが履践されていること
(4)当該従業員に懲戒解雇の意思表示をすること
の全ての要件が満たされる必要があるとされています。以下、具体的に見ていきます。
(1)懲戒解雇の根拠規定が就業規則に記載されていること
まず、懲戒解雇も懲戒処分の一種であることから就業規則に明記し、従業員にその内容を周知する必要があります(労働基準法89条9号、106条1項)。
就業規則ではどのような場合に懲戒事由となるかを明確に定めておく必要があるとされます。
(2)解雇権の濫用に当たらないこと
次に、懲戒処分が労働者の行為の性質や態様その他の事情に照らして「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は権利濫用として懲戒が無効となるとされています(労働契約法15条)。
つまり、客観的合理性と社会通念上の相当性がなければ無効ということです。これは他の解雇の場合も同様です。
(3)適正な手続きが履践されていること
懲戒解雇を検討している場合は、従業員の言い分を聞く「弁明の機会」を与える必要があります。これは非常に重要な手続きで、これを適切に行わずに解雇した場合は高い確率で無効と判断されるといえます。
就業規則に手続きが記載されている場合はそれに従うこととなります。
(4)当該従業員に懲戒解雇の意思表示をすること
最後に、会社側の懲戒解雇処分の意思表示を書面などで通知することが必要になります。
懲戒解雇に関する裁判例
懲戒解雇に関する最近の裁判例として、従業員がセクハラやパワハラ、不倫を行っていたなど10の懲戒事由に該当するとして解雇された例があります。
この事例で裁判所は、会社の懲罰委員会でどのような審議がされ、どのように判断されたのかが不明で従業員に反論の機会が与えられていたのか、反論を踏まえた慎重な検討があったのかに疑問があるとして解雇を無効としました(東京地裁令和元年6月26日)。
弁明の機会など重要な手続きの履践が確認できず無効とされたものと考えられます。
その他にも、懲戒解雇の意思表示を従業員に行った当時、会社の就業規則に懲戒解雇に関する規定が存在しなかったケースで裁判所は、従業員に対する懲戒解雇は懲戒権の根拠を欠き無効であると判断しています(大阪地裁令和元年10月15日)。
就業規則に規定のない懲戒解雇は無効であると明確にされています。
さらに、会社がプログラマーにソースコード提出義務違反で普通解雇した後、プログラマーがソースコードと引き換えに賃金の支払を要求したことを理由とする懲戒解雇の事例では、会社側が提示した提出日時を2分超過した時点で懲戒解雇としていることから、あまりに性急であるとして無効とされています(東京地裁令和元年12月26日)。
コメント
本件で東京地裁は、男性がクレームの詳細を上司から説明されておらず、またクレーム数が突出して多かったかも判然としないとして、「直ちに雇用契約を終了させなければならない事由はない」として懲戒解雇を無効としました。
十分に説明し反論の機会を与えたことの確認ができず、また懲戒事由も判然としないことから客観的合理性が認められないとされたものと考えられます。
以上のように、懲戒解雇が適法と認められるためには4つの要件を満たす必要があります。
特に、従業員に十分な反論の機会などを与えていない性急な処分に対しては裁判所は厳しい判断を行う傾向にあるといえます。
会社の就業規則に明確な規定が置かれているか、またどのような手続きが必要かを社内で周知して慎重に進めていくことが重要といえるでしょう。
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