東京五輪をめぐる汚職事件でコンサル会社元代表の初公判、受託収賄とは
2025/12/08 コンプライアンス, 危機管理, 行政対応, 刑事法, コンサルティング

はじめに
東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件で大会組織委員会の元理事とともにコンサル会社「コモンズ2」の元代表の初公判が4日、東京地裁で開かれていたことがわかりました。受託収賄容疑とのことです。
事案の概要
報道などによりますと、コモンズ2の元代表は大会組織委員会の元理事と共謀し、大会のスポンサー選定などで便宜を図った見返りに、出版大手KADOKAWAから約7600万円、広告会社「大広」から約1500万円の計約9100万円の賄賂を受け取ったとして2022年に起訴されています。
コモンズ2の元代表は罪状認否で、自らの無罪とKADOKAWAと大広から受け取った金銭はコンサル業務に対する報酬であり賄賂ではないと陳述したとされます。
検察側は元理事がスポンサー選定の見返りとして金銭を受け取ることが違法と認識していたため、コンサル業務委託費などの名目で受け取ったと主張したとのことです。
判決は来年1月に言い渡される予定です。
贈収賄とは
贈収賄とは一般に贈賄と収賄を合わせた言葉です。贈賄とは公務員等に対し賄賂を供与する行為を指し、収賄とはその賄賂を受け取る行為を指します。
刑法では197条~197条の4および198条で単純収賄罪や受託収賄罪など様々な態様の贈収賄罪を規定し、重い罰則が置かれています。たとえば単純収賄では5年以下の拘禁刑、受託収賄では7年以下の拘禁刑、過重収賄では1年以上の有期拘禁刑、贈賄では3年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金となっています。
このように刑法で贈収賄を厳しく規制する目的は、公務の公正性や公平性を担保し、国民からの信頼確保と社会システムを正常に維持することにあります。公務員の公務や処分、司法機関の判断や立法機関の立法作用に金銭が関与することとなれば、国の秩序を維持することが困難となるからと言えます。
以下、要件等を見ていきます。
贈収賄の要件
まず、収賄罪の主体は「公務員」とされています。「公務員」とは国または地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいうとされます(7条1項)。
また、公務員ではないものの、職務内容が公務に準ずる公益性と公共性を有しているとして「みなし公務員」として刑法の適用を受ける者も存在します。たとえば国立大学法人の役職員や日本年金機構の役職員、公証人、土地開発公社の役職員、日弁連の会長等、日銀の役職員などが挙げられます。これらの者も公務員と同じように収賄罪の主体となります。
次に、「賄賂」とは、有形無形を問わず、人の需要・欲望を満たすに足りる一切の利益を含むとされています(大審院明治43年12月19日)。つまり金銭に限らず、あらゆる利益が賄賂に該当すると言えます。
収賄罪の要件の一つとして「公務員が、その職務に関し」賄賂を収受するとあります。これは公務員の職務と賄賂が対価関係に立つことと言われています。この職務には不正な職務も含まれます。また、具体的に担当している事務でなくとも、一般的職務権限に属する範囲の業務であれば良いとされます(最判昭和37年5月29日)。
収賄罪の態様
収賄罪には多くの態様があり、具体的には単純収賄、受託収賄、事前収賄、第三者供賄、加重収賄、事後収賄、あっせん収賄の7つに分けられます。
まず、公務員が職務に関して賄賂を受けたり、その要求または約束をする行為が“単純収賄”です。これに加え、公務員が請託を受けたときが“受託収賄”となります。「請託」とは職務に関して一定の行為を行うことを依頼することとされます。この行為は正当か不正かは問われません。
まだ公務員ではなく、公務員になろうとする者が、担当すべき職務に関して請託を受けて賄賂を受け、または要求・約束した、その後公務員となった場合は“事前収賄”となります。
公務員が請託を受けて「第三者」に賄賂を供与させたり、その要求や約束をした場合は“第三者供賄”となります。金銭等が渡された者が第三者であっても、実質的に公務員自身が受け取ったと見られる場合は“受託収賄”となります。
公務員がこれらの収賄行為を行い、それに加えて不正行為をするか、または相当な行為をしなかった場合は“加重収賄”となります。賄賂を受け取っただけでなく、それによって不正行為を行ったことに対する加重類型です。
公務員であった者が在職中に請託を受けて不正または相当な行為をしなかった事に関し、賄賂を受けたり要求・約束をしたときは“事後収賄”となります。公務員でなくなってからの行為類型です。在職中に要求や約束をした場合は“加重収賄”となります。
コメント
本件で大会組織委員会の元理事とコモンズ2の元代表は、スポンサー選定の見返りとして金銭を受け取った疑いが持たれています。大会組織委員会の元理事は公務員ではないものの、公務員に準じて扱われるみなし公務員に該当します。これらが事実であった場合は、受託収賄罪となるものと考えられます。
以上のように、公務員ではなくともそれに準ずる立場の者は各種法令によって公務員と同様に扱われます。また、公務員等と共犯関係となった場合も同様に収賄罪の対象となります。
これらを踏まえて、どのような場合に違法となるかを社内で周知し、事前に予防していくことが重要と言えるでしょう。
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