東京地裁がゴールドマン・サックスの解雇を無効判断、整理解雇の要件について
2025/10/16 労務法務, 労働法全般, 金融・証券・保険

はじめに
米金融大手「ゴールドマン・サックス」の日本国内のグループ会社に勤めていたフランス国籍の男性が、不当に解雇されたとして未払い賃金の支払いなどを求めていた訴訟で14日、東京地裁が約760万円の支払いを命じていたことがわかりました。解雇は無効とのことです。
今回は整理解雇の要件について見直していきます。
事案の概要
報道によりますと、ゴールドマン・サックスのグループ企業でエンジニアとして勤務していたフランス国籍の男性は、2022年に経営環境の悪化を理由に退職勧奨を受け、これを拒否すると翌年に雇用契約を解除されたとされます。
男性は正当な理由のない解雇であるとして未払い賃金などを求め、東京地裁に提訴していました。これに対し会社側は、転職を前提とした雇用形態を取っており、正当な労働力の調整であると反論していたとのことです。
整理解雇とは
整理解雇とは、経営悪化や事業縮小、人員整理など企業の経営上の理由による労働者の解雇を言います。整理解雇も解雇の一種ではありますが、懲戒解雇や通常解雇と異なり労働者に非がないにもかかわらず、やむを得ず行われる解雇と言えます。
似た概念として「リストラ」というものがありますが、これは事業の再構築を意味し、会社の不採算部門の整理や人員削減などを指すことが多く、希望退職者の募集や有期雇用契約の雇い止めと並んで整理解雇もこれに含まれるとされます。
このように整理解雇は通常の解雇とは大きく性質が異なり、その必要な手続きも異なってきます。以下、具体的に見ていきます。
整理解雇の4要件
(1)人員削減の必要性
整理解雇については従来から直接規定する法令が無く、判例によって4つの要件が構築されてきました。その1つめが人員削減の必要性です。経営不振による業績悪化で人件費を削減することが企業運営上やむを得ない場合を言います。これは人員削減しなければ倒産を免れない状況までは必要ではなく、債務超過や赤字の累積で足りるとされています。
(2)解雇回避努力
整理解雇をするにしても企業はまず解雇を考えるのではなく、配転や出向、希望退職の募集など解雇を回避する努力が求められます。裁判例でも、まずは労働者にとって打撃の少ないと考えられる希望退職を募り、これによってはどうしても目的を達し得ない場合に初めて指名解雇措置が許されるとされています(福岡地裁小倉支判昭和53年7月20日)。
(3)人選の合理性
整理解雇をするにしても、会社が誰を選んでも良いというわけではありません。解雇する従業員を選定するにつき、会社はまず客観的で合理的な基準を設定し、これを公正に適用して選定することが求められています(東京地裁平成18年1月13日)。効率性や合理性だけで人選することはできないということです。認められた選定基準としては、顧客アンケートの評価や顧客からの指名数など勤務成績や貢献度、また過去○年間の欠勤・遅刻など勤怠状況、共働きや扶養家族の有無などが挙げられます。
(4)手続きの相当性
整理解雇を行うに際しては、まず対象となっている労働者に対し整理解雇の必要性やその時期、方法や規模などを説明し、誠意を持って協議することが必要と言われています。これは十分な期間を確保して決算資料などを開示するなどして丁寧に説明し、理解を得る努力が必要です。資料の外部への流出の危険を理由としてコピーを拒否した例(大阪地裁平成6年3月30日)や、解雇数日前に団体交渉をしただけという例(甲府地裁平成21年5月21日)で手続きが十分でないとされています。
コメント
本件で東京地裁は、人員削減の必要性は認められず、別の業務を割り振るなど解雇を回避する努力も非常に不十分だったと指摘。解雇権の濫用に当たるとして解雇を無効と判断しました。
同社は転職を前提とした雇用形態で正当な労働力の調整であると主張していたことから、人員選定基準の策定や手続きの履践についても不備があったのではないかと考えられます。
以上のように、通常の解雇と異なり整理解雇は会社側の都合による解雇です。そのため真摯な手続きの実践が求められます。上記の整理解雇4要件を踏まえて丁寧に手続きを進め、従業員の理解を得る努力をしていくことが重要と言えるでしょう。
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