会社が一方的に選んだ代表者との36協定、無効とされ書類送検
2025/07/07   労務法務, 労働法全般, メーカー

はじめに

山口県の岩国労働基準監督署が、有効な協定を届け出ずに外国人技能実習生に時間外労働をさせていたとして、市内のプラスチック製品製造会社を書類送検していたことがわかりました。代表者を会社側が一方的に選んでいたとのことです。

今回は労基法の36協定について見直していきます。

 

事案の概要

報道などによりますと、山口県岩国市のプラスチック製品製造会社「共立プラスチック」では、2023年1月、外国人技能実習生12人に1週間に40時間、または1日8時間を超える時間外労働をさせていたとされます。
同社は労基法が求める、いわゆる36協定を労基署に届け出ていたものの、会社が一方的に選んだ代表者と締結したものだったとのことです。

岩国労基署はこの届出された協定を無効と判断し、同社および同社の課長1人を書類送検しました。

なお、同社では最長で1ヶ月に89時間の時間外労働をさせていたとされます。同社は選出方法を改めるなど再発防止に取り組むとしています。

 

労働時間と36協定

これまでも何度も取り上げてきましたが、労働基準法では厳格な労働時間規制が置かれています。

まず、使用者は労働者を休憩時間を除き1日8時間、週に40時間を超えて労働させてはならないとされています(32条1項、2項)。これを超えて時間外労働させるには、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者と協定を締結し、管轄労基署に届け出る必要があります。

これがいわゆる「36協定(サブロク協定)」と呼ばれるものです。

もしこの協定を締結せずに従業員に時間外労働をさせた場合、罰則として6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金となっています(119条1号)。

このように労基法では時間外労働(残業)自体、無条件でさせることができないようになっています。

 

36協定で定める事項

それでは、具体的に36協定でどのようなことを定める必要があるのでしょうか。労基法36条2項によりますと、

(1)労働時間を延長し、または休日に労働させることができるとされる労働者の範囲、
(2)労働時間を延長し、または休日に労働させることができる期間、
(3)労働時間を延長し、または休日に労働させることができる場合、
(4)対象期間における延長できる時間または休日の日数、
(5)その他厚労省令で定める事項となっています。

その他厚労省令で定める事項とは、協定の有効期限や労働時間延長の起算日、限度時間、時間外労働をする労働者への福祉確保措置、割増賃金率、手続きなどとなっています(労基法施行規則17条)。

締結し、労基署に届け出た36協定は、事業場の見やすい場所に掲示や備え付けたり、書面を労働者に交付する、また電磁的記録で保存し、常時内容を確認できるようにするなど従業員に周知する必要があり、これに違反した場合にも30万円以下の罰金が規定されています(106条)。

 

労働者の過半数を代表する者

上でも触れたように、36協定は過半数労組かまたは過半数を代表する者と会社が協定を締結する必要があり、この要件を満たしていない協定を労基署に届け出ても、それは無効とされています。

まず、過半数労組の要件としては、正社員だけでなくパートやアルバイトも含めた事業場のすべての労働者の過半数で組織されたものである必要があります。

そして、労働者の過半数を代表する者もやはり正社員だけでなくパートやアルバイト含めた全従業員の過半数を代表していなければなりません。
この代表選出に関しては、36協定締結のための代表を選出する旨を明らかにした上で、投票や挙手、話し合いや持ち回り決議など民主的な手続きでの選出が求められます。

使用者が指名した場合や、親睦会の幹事などを自動的に選ぶといった場合は、適正に選出されたとは言えず無効となるとされています。

 

コメント

本件で共立プラスチックは、労基署に36協定を届け出ていたものの、会社側が一方的に選んだ労働者代表者と締結したものであったとされます。
労基署はこの協定を無効と判断し、協定なしで時間外労働をさせていたとして、労基法違反の疑いで書類送検しました。

以上のように、労基法では時間外労働に厳格な規制を置いています。

求められる協定もパートやアルバイトを含めた事業場の全従業員の過半数で組織する組合か、過半数を代表した者と締結する必要があります。
また、36協定が有効であったとしても、無制限に時間外労働ができるわけではなく、罰則付きで上限規制が設けられています。

自社の36協定は正しく選出された者と締結されているか、記載事項は満たされているか、また事業場に貼り出すなど従業員に周知されているかを見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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