特定技能・外国人労働者への休業手当未払いで「シャトレーゼ」に改善命令
2025/05/12 労務法務, 外国人雇用, コンプライアンス, 労働法全般, 食料品メーカー

はじめに
大手菓子メーカー「シャトレーゼ」が、特定技能の在留資格を持つ外国人労働者に対し、休業手当を支払っていなかったとして、出入国在留管理庁より改善命令を受けたことが報じられました。
対象となったのは、同社が新設予定の工場で雇用したベトナム人従業員157名で、未払いの休業手当は総額約4,100万円にのぼるとのことです。
事案の背景と経緯
報道によれば、シャトレーゼは2024年2月、新工場の稼働を見越して、特定技能の在留資格を持つベトナム人労働者との雇用契約を締結しました。
しかし、工場建設が予定よりも遅れたことから、労働者たちはすぐに業務に就くことができず、1~3ヶ月程度の期間、給与が支払われない状態となっていました。
その結果、未払い分は総額で約4,100万円に達し、出入国在留管理庁は改善命令を出すとともに、約1ヶ月以内の改善報告書の提出を求めています。
なお、同社はすでに未払い分の休業手当については支払いを完了しているとされています。
労働基準法における休業手当とは
労働基準法第26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合、使用者が労働者に対し、休業期間中にその平均賃金の60%以上を支払う義務があると定めています。これは、企業側の都合によって従業員を就業させることができない場合に適用される規定です。
たとえば、事業所の改装や移転、設備の不具合、資材の納入遅延など、従業員に責任のない理由で業務が停止された場合でも、生活保障の観点から一定の補償が求められることになります。
「使用者の責に帰すべき事由」の具体例
この「使用者の責に帰すべき事由」は広範に解釈されており、以下のようなケースが含まれます。
・注文や売上の減少など経営上の問題
・原材料不足、仕入先とのトラブルによる操業停止
・機械の故障やメンテナンス不良
・人手不足や人員配置のミス
・親会社の経営難
・監督官庁等からの行政処分や自治体からの休業要請
一方で、地震などの自然災害など、企業・労働者のいずれにも責任がない場合には適用されません。
また、休業が1日未満であっても、たとえば午前中のみ業務に就けなかったというようなケースでも対象になる可能性があります。
平均賃金の計算方法
休業手当の基準となる「平均賃金」は、原則として、算定事由発生日以前3ヶ月間に支払われた賃金の総額を“その期間の総日数”で除した金額と定義されています(労基法第12条)。この賃金総額には通勤手当、時間外手当、精勤手当なども含まれ、税や社会保険料を控除する前の額が用いられます。
なお、日給制や出来高払いなどで労働日数が少ない場合には、総額を“労働日数”で除した方法で計算した方が高い金額になることがあり、その場合は高い方を適用することが認められています。
本件への所見と企業の対応策
今回のケースでは、「工場建設の遅延」という企業側の都合で労働者が業務に就けなかったことが明確であり、労基法第26条に該当する休業と判断されるのは妥当といえるでしょう。企業が休業手当の支給を怠ると、罰金(30万円以下)を科される可能性があります。また、外国人労働者の受け入れ機関としての信頼性にも影響が及ぶおそれがあります。
特に外国人材を雇用する際には、就労開始時点ではなく、雇用契約の開始時点から給与支払い義務が発生することを強く認識し、就労開始に至るまでのスケジュール管理やリスク対応にも万全を期す必要があります。
休業手当の制度は、企業活動に不可避なトラブルや不確実性から労働者の生活を守るために設けられています。「働いていないから賃金は発生しない」と短絡的に考えることは許されず、休業の理由が企業側にある場合には、その責任を果たさねばなりません。
制度の適用可否を正しく判断し、社内での周知・対応を徹底することが求められます。
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