東証が少数株主の利益保護、MBOの新ルール導入へ
2025/03/11 商事法務, 総会対応, コンプライアンス, 会社法

はじめに
東京証券取引所が近く、MBOに関する新しいルールを設定することがわかりました。安価な買収の防止や少数株主の保護が目的とのことです。今回は企業行動規範改訂の動きを見ていきます。
MBOとは
MBOとは、マネジメント・バイアウトの略で、会社の経営陣が自社の株式を買収して独立することを言うとされます。創業家やオーナーではない経営陣が事業の継続を前提として、株式を買い集め、経営権を取得するといった場合を指します。同時に株式の上場を廃止して非公開化することが一般的です。事業の再建や敵対的買収の防衛策の一環として行われる場合があります。2008年のリーマンショック以降急激に件数が増加したといわれております。通常のM&Aが外部の第三者によって買収されるのにたいし、MBOはあくまでも自社の経営陣など内部の人間が経営権を取得するところに特徴があります。非公開化によって、いわゆる物言う株主(アクティビスト)による介入を排除し、中長期的な視点で安定した経営が期待できるといったメリットがあるといわれております。
MBOの問題点
上でも触れたようにMBOは会社経営陣による自社の買収です。具体的には経営陣が自社に株式公開買付け(TOB)を行い、最終的に残った少数株主については株式併合などによってスクイーズアウトすることとなります。このTOBをかける際に経営陣が不当に低い価格を設定し、低廉な買収額で経営権を握ってしまうという問題が指摘されておりました。極端な例としては、あえて一時的に悪い業績を発表し、株価が下がったタイミングでそれよりも若干高い価格を設定し、本来の価値よりも低い価格で会社を乗っ取ってしまうということも想定できます。そこで東証はかねてからこういったMBOの問題を是正すべく、価格設定の手続きの適正や、価格設定の前提となる情報の開示を充実させ、既存株主の保護を図ることを検討しておりました。
東証の企業行動規範の見直し案
先月の東証のフォローアップ会議での資料によりますと、(1)少数株主にとって不利益でないことに関する意見の在り方の見直しと、(2)必用かつ十分な情報開示の内容の見直しが検討されております。現行の企業行動規範では、MBOに際して特別委員会や社外取締役、監査役、有識者など利害関係を有しない者から少数株主にとって不利益でないことに関する意見を入手することを求めております。見直し案では入手先を利害関係の有しない者からではなく、特別委員会に限定することが検討されております。意見の内容についても、一般株主にとって公正であることに関する意見の入手を義務付け、検討内容や根拠など十分な説明を意見の中に求めるとされます。そして一般株主が十分な情報を得たうえで、取引の公正性を判断できるよう株式価格算定の重要な前提条件の開示の拡充も検討されております。株式価格算定のための財務予測や割引率、継続価値、非事業用資産など十分な情報の提供が求められます。
コメント
近年日本では巨額の資金を伴うMBOが相次いでおります。ブルームバーグによりますと、2024年は富士ソフトや永谷園HDなど35件のMBOが行われており、現在もセブン&アイ・ホールディングスの創業家などが総額9兆円規模のMBOを検討しているとされております。アクティビストによる株主総会への圧力が高まる中、株式の上場を廃止して安定した経営を求める企業が増加していると言えます。しかし一方でMBOは不当に低廉な価格での買収が行われるなど既存株主の利益が害される例も指摘されております。そこで東証では特別委員会の設置や価格算定の前提となる情報の開示を充実させる新ルールの設定を予定しております。MBOを検討する際には会社法や金商法の手続きだけでなく、既存株主や少数株主の利益にも配慮して進めていくことが重要と言えるでしょう。
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