罰則導入を閣議決定、公益通報者保護法改正の動き
2025/03/06 コンプライアンス, 危機管理, 法改正, 公益通報者保護法

はじめに
内部通報をした人に対し不利益な処分をした事業者等に刑事罰を科す公益通報者保護法の一部改正案が閣議決定されていたことがわかりました。消費者担当大臣は早期の成立に万全を期したいとしております。今回は公益通報者保護制度を見直していきます。
改正の経緯
公益通報者保護法は前回の法改正が施行された2022年以降も同法で義務付けられた通報体制整備や従事者指定がなされていない事業者が3割~4割に上るとの調査結果が出るなど実効性が伴っていないとの指摘がなされておりました。また近年、公益通報の可能性がある通報に対し、通報の対象となっている権利者が通報者を探し出し、早急に懲戒処分をしてしまうなど公益通報者保護制度がまったく機能していない状況となっておりました。これを受け伊藤消費者大臣は、近年の公益通報者の保護をめぐる国内外の動向に鑑みて必用な法整備を行うとし、事業者が適切に対応するための体制整備の徹底や、公益通報を理由とする不利益な取り扱いの抑止、救済の強化を進めるとしております。
公益通報者保護制度とは
公益通報者保護法は内部告発を行った労働者を保護することを目的として、2004年6月に成立し、2006年4月1日から施行されました。公益通報者保護法はもともと労働法の一種と考えられており、公益通報者として保護の対象としているのは「労働者」が中心となっているとされております。また通報の対象となっている違反事実も、刑事罰の対象となっている法令違反等に限定されており、通報先も厳格に限定され、公益通報者保護法に違反した場合でも解雇や減給などの不利益処分が無効となったり通報者への損害賠償請求が制限される等に留まっております。また事業者には内部通報に適切に対応するために必用な体制の整備、内部調査等の従事者に対し、通報者を特定させる情報の守秘を義務付けております。またこの体制整備義務に違反している事業者には助言や指導、勧告等の行政措置が用意されております。
公益通報保護の要件
(1)公益通報
公益通報保護制度による保護の対象となる公益通報とは、「労働者・退職者・役員が不正の目的でなく、勤務先における刑事罰・過料の対象となる不正を通報すること」と定義されております。保護の対象は当該勤務先の労働者や退職者または役員となっており、通報自体に不正の目的がなく、勤務先での違反行為の通報となっております。また対象となる不正は、国民の生命・身体・財産等の保護に関する法令約500本となっており、直接に刑事罰や過料が科される行為、または最終的に刑事罰または過料が科されることに繋がる行為とされております。
(2)通報先
通報先は3つ規定が用意されており、(1)事業者、(2)行政機関、(3)報道機関等となっております。事業者とは上司など勤務先内部に通報するというものです。この通報先によってそれぞれ保護の条件が異なっており、事業者への通報は「不正があると思料すること」となっております。行政機関の場合は「不正があると信ずるに足りる相当の理由があること、または不正があると思料し、氏名などを記載した書面を提出すること」となっております。そして報道機関等の場合は「不正があると信ずるに足りる相当の理由があること及び内部通報では解雇等の不利益扱いを受けるまたは生命・身体への危険等といった事由があること」となっております。事業者内部、行政機関、報道機関と順に公益通報として保護される条件が厳しくなっているということです。
(3)保護の内容
公益通報に該当する場合、保護の内容は、解雇無効、降格減給その他の不利益な取り扱いの禁止、通報者への損害賠償請求の制限となっております。役員については解任は無効とはされないが損害賠償請求が可能とされております。また不利益取り扱いについては配置転換や嫌がらせといった行為も禁止の対象に含まれるとされます。これらについては現行法上罰則などは規定されておらず、解雇や降格といった不利益取り扱いを受けた者は裁判で争うことができるに留まっております。
コメント
以上のように公益通報として保護されるための条件はかなり複雑で限定的となっております。また通報の対象となる違反事実も刑罰の対象となっているものに限定されており、パワハラやセクハラ(それが刑法等に抵触する場合を除く)といった倫理違反行為も対象外となっております。今回の改正案では違反に対して6ヶ月以下の拘禁刑か30万円以下の罰金、法人には3000万円以下の罰金を新設し、また民事訴訟では事業者側に通報と処分に関係がない旨の立証責任を課すとしております。また従業員が300人を超える事業者には窓口等の設置違反に対し立ち入り検査ができる他、命令に従わない場合は30万円以下の罰金を科すとしております。自社の体制整備状況を確認しつつ、公益通報の条件、また法改正の動きを注視しつつ社内で周知していくことが重要と言えるでしょう。
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