朝日出版元経営陣が訴え取り下げへ、株主総会決議不存在確認の訴えとは
2025/02/19 商事法務, 総会対応, 訴訟対応, 会社法

はじめに
大学向け語学教材の「朝日出版」の買収をめぐるトラブルで解任されていた元経営陣が同社を訴えていた問題で、訴えが取り下げられる見通しであることがわかりました。元経営陣が復帰するとのことです。今回は株主総会決議不存在確認の訴えについて見ていきます。
事案の概要
朝日新聞の報道によりますと、朝日出版の創業者が昨年春に亡くなったことを契機に、株式を相続した遺族と旧経営陣との間でトラブルが発生していたとされます。創業者から株式を相続した遺族は同社を他社に売却する意向を示していたところ、旧経営陣が買収額の低さを理由に反対しており、遺族側が旧経営陣6人を解任し、自ら新役員に就任していたとのことです。解任された旧経営陣は株主総会決議が存在しないことの確認を求める訴えを昨年10月29日に東京地裁に提訴しておりました。その後同社は英会話教室大手「NOVAホールディングス」が買収され、旧経営陣も復帰する運びとなり訴訟は取り下げられる見通しとされております。
株主総会決議不存在確認の訴えとは
株主総会決議不存在確認の訴えとは、株主総会決議が存在しない場合や、手続きの瑕疵が著しい場合に決議が不存在であることの確認を求める訴えを言います(会社法830条1項)。株主総会を開催して決議をした事実が全くないにもかかわらず、その決議があったかのように登記がなされている場合や、招集通知漏れが著しく、社会通念上通知があったとは認められないような場合、取締役会決議なしに代表取締役以外の取締役が株主総会を招集していた場合などが典型例と言えます。このような場合は株主総会決議の瑕疵が重大であることから、訴えによらなくても不存在を主張できますが会社法では不存在確認の訴えが用意されております。以下手続きを具体的に見ていきます。
株主総会決議不存在確認の訴えの手続き
株主総会決議不存在確認の訴えの原告については特に制限はなく、訴えの利益があれば誰でも提起することができます。被告となるのは当該株式会社のみとなります。提訴期間についても制限はなく、はやり訴えの利益がある限り何時でも提起することが可能です。管轄は会社本店所在地の地方裁判所となります(835条)。なお原告が株主である場合、会社側が原告の悪意を疎明した場合、裁判所は原告に相当の担保提供を命じることができます(836条1項、3項)。また数個の訴えが提起された場合は弁論と裁判が併合されることとなります(835条)。そしてこの株主総会決議不存在確認の訴えで勝訴した場合、決議が最初から無効または不存在が確認され、その判決の効力は第三者に対しても及ぶこととなります(838条)。逆に敗訴した場合は判決の効力は第三者に及ばず、原告の提訴に悪意または重過失がある場合は会社に対して損害賠償の責任を負うこととなります(846条)。
株主総会決議取消の訴えの場合
株主総会決議を争う訴訟として株主総会決議取消の訴えというものも存在します(831条)。こちらは不存在確認の訴えと異なり提訴理由が限定されております。対象となるのは(1)招集手続き・決議方法の法令・定款違反または著しく不公正な場合、(2)決議内容の定款違反となっております。原告は株主、取締役、監査役、執行役、清算人、または決議によってこれらの者でなくなった者となります。株主については決議当時株主でなく、その後に株主となった場合でも提訴可能と言われております。管轄や悪意疎明による担保供与命令、弁論の併合などについては不存在確認の訴えと同様です。そして取消の訴えには提訴期間が設けられており、決議の日から3ヶ月以内となっております(同1項)。そのためこの3ヶ月が経過した後はすでに提訴されている訴訟内で新たな取消事由を追加主張することもできないとされております(最判昭和51年12月24日)。
コメント
本件で原告側の主張によりますと、役員解任や選任決議に対する株主の同意を示す書面が法律どおりに本店に置かれておらず確認もできないとされております。詳細は不明ですが株主総会決議に係る議事録などが適正に作成・備え置きがなされていなかったのではないかと考えられます。しかしその後NOVAによる買収と旧経営陣の復帰が決まり、訴えは取り下げられる見通しとのことです。以上のように株主総会の手続きや決議につき瑕疵が存在する場合、その内容によっては決議取消の訴えや不存在確認の訴え、また決議無効確認の訴えが用意されております。それぞれ対象となる事由や原告、提訴期間などに違いがあります。どのような場合にどのような訴訟が提起されるのか、今一度確認して準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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