従業員が米グーグル日本法人を提訴、退職勧奨とは
2025/02/03   労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, IT

はじめに

 米グーグル日本法人の従業員が退職勧奨に応じなかったことを理由に不当な扱いを受けたとして、同社を相手取り損害賠償を求め東京地裁に提訴していたことがわかりました。賞与を減額されたりしたとのことです。今回は退職勧奨について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、米グーグル日本法人で働く30~40代の男女6人は会社側からの退職勧奨に応じなかったことを理由に、望まない部署に異動させられたり、賞与を減らされたりしたとされます。米グーグルは世界的な景気の減速などで、コスト削減が避けられないと判断し、2023年1月世界規模で1万2千人の人員削減をすると発表していたとのことです。原告側は同社のこのような対応について、原告らを退職に追い込むために人格権を侵害するもので、雇用契約上の義務に反すると主張、本来支払われるべき賞与との差額などの賠償を求め提訴しました。

 

退職勧奨とは

 退職勧奨とは、会社側が従業員に対し退職を勧めることを言います。解雇とは異なり、あくまで従業員の自発的な退職を促す行為であることから、事後的な紛争の可能性も高くなく穏当な手段となります。実際に多くの会社では、人員削減や業務に向かない、成績が悪いと言った理由で解雇したい場合にまず退職勧奨が行われることが多いと言えます。しかしそのやり方によっては退職勧奨が違法と評価される場合もあり、後に損害賠償請求や退職が無効となることも有りえます。説得が長時間に及んだり、説得に応じなければ強制的な手段を採るなどと言ったり、またいわゆる追い出し部屋と呼ばれる必要性の低い業務や部署に異動させたりといった場合が挙げられます。実際にこのような退職勧奨について違法であると判断された例は多数に上ります。以下具体的に見ていきます。

 

退職勧奨の認められる範囲

 それでは退職勧奨はどのような範囲で許容されるのでしょうか。この点について裁判例では、退職勧奨は対象となった労働者の自発的な退職意思の形成を働きかけるための説得活動であるが、これに応じるか労働者の自由な意思に委ねられるべきであるとし、使用者は説得活動について、手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り正当な業務行為として行い得るとしております。また社会通念上相当と認められる限度を超えて、不当な心理的圧迫を加えたり、名誉感情を不当に害するような言辞を用いることによって自由な意思形成を妨げる場合は違法な不法行為となるとしております(日本アイ・ビー・エム事件 東京地裁平成23年12月28日)。つまり社会通念上相当と認められる手段や方法でなければならないということです。それを超えた場合は不法行為となり慰謝料請求や、場合によっては退職自体が無効とされてしまう可能性があります。

 

その他の裁判例

 上記以外にも退職勧奨が違法であると判断された事例として、数年前から退職勧奨を拒否しているにもかかわらず、3~4ヶ月の間に10回以上出頭を命じ、複数の職員から20分~120分にわたって退職勧奨を受け、さらに退職をするまで勧奨し続ける、退職するまで所属組合の要求にも応じないと執拗に心理的圧迫を加えられた例があります。最高裁は自発的な意思形成を阻害する違法な退職勧奨と判断しました(下関工業高校事件 最判昭和55年7月10日)。また「いつまでしがみつくつもりなのか」「やめていただくのが筋です」「この仕事はもう無理です。記憶障害であるとか若年性認知症みたいな」などといった表現を用いた例でも、自由意思を阻害するような侮辱的表現に加え長時間にわたり行われた退職勧奨は違法と判断されました(日本航空事件 東京高裁平成24年11月29日)。他にも退職勧奨の際に怒鳴る、机を叩くといった威迫行為を行った場合(大阪地裁平成11年10月18日)や妊娠を理由に退職勧奨を行った場合でも違法との判断が出ております(東京地裁立川支部平成29年1月31日)。

 

コメント

 本件で詳細は不明ですが、グーグル日本法人の従業員6名は同社から退職勧奨に応じなかったことを理由に望まない部署に異動させられたり賞与を減額されたとしております。これが事実であった場合は社会通念上相当な限度を超えた退職勧奨と判断される可能性もあると言えます。勧奨のやり方や程度、時間、異動や減額との関係などが争点となってくるものと考えられます。以上のように退職勧奨については判例上一定の限度が示されております。人員削減などが必要となった企業では多くの場合にこの退職勧奨が行われると言えますが、限度を超えて違法となった場合は慰謝料請求や、錯誤による退職の無効とされることがあります。退職勧奨をする上で、これらの点を踏まえてあくまでも自主的な退職を促すものであることを社内で周知しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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