東京女子医大元理事長を背任容疑で逮捕/公益通報者保護の3号通報について
2025/01/20   労務法務, コンプライアンス, 危機管理, 公益通報者保護法

はじめに


学校法人東京女子医科大学の元理事長が1月13日、背任容疑で警視庁に逮捕されました。元理事長が発注したキャンパスの施設建設工事を巡り、建築士の男性の口座に不当な報酬を大学に支払わせ、大学側に1億円以上の損害を与えた疑いが持たれています。元理事長に資金の一部が渡っていたとみられています。

事件が明るみになったきっかけは、職員による週刊誌への告発でした。しかし、大学側は告発した2人を懲戒処分としています。公益通報者保護制度と照らし合わせて、こちらの問題もみていきます。

 

1億円以上の損害を与えたか 元理事長が背任容疑で逮捕


報道などによりますと、元理事長は2018年7月から2020年2月にかけて、新宿区にあるキャンパスの施設建設をめぐり、実態のない“建築アドバイザー業務”への報酬として建築士の口座に大学から21回にわたり資金を振り込ませ、大学に1億1700万円の損害を与えた背任の疑いが持たれています。

建築士は報酬を受け取っていたものの、実際には建築アドバイザー業務を行っていなかったといいます。

大学の発表などによると、建築士は2016年4月から非常勤嘱託職員(建築アドバイザー)として大学に勤務していました。この建築士には2,000万円ほどの給与が支払われていましたが、元理事長が2018年2月の理事会で報酬額の低さを指摘。キャンパス施工費の1%を支払うよう大学に提案したということです。理事会などが承認した上で報酬が支給されていましたが、金額の根拠や業務内容などが不透明なまま決定されたとみられています。

警視庁は資金の一部が元理事長に渡ったとみています。建築士は2019年2月以降に2度、自分の口座から合わせて約3,700万円を引き出していますが、その後、大学の元職員の女性を通じて元理事長へ引き渡されている可能性があるということです。
現金の引渡しに関与したとみられる元職員は元理事長に現金を渡したと認めていると報じられています。元理事長は還流させて得た金でブランド品などを購入していたとみられます。

大学は1月13日にHP上にお詫びを掲載。既に元理事長は解任されているものの、逮捕されたことは誠に遺憾であるとし、深くお詫びするとコメントしています。

元理事長の逮捕について(1月13日) お詫び_学校法人 東京女子医科大学

 

週刊誌へ告発した職員を解雇


2019年に理事長に就任し、大学のトップとして当時赤字だった経営の立て直しを図っていた元理事長。今回、警視庁が不正支出の疑いがあるとして捜査を始めたのは、大学の関係者からの告発がきっかけでした。
告発は、職員2人が株式会社文藝春秋に対して行ったもので、2022年4月に、同社が発刊する「週刊文春」が内容を伝えました。

元理事長らは記事の掲載後、内部監査室の職員らに告発者を特定するよう指示。その後、告発を行った職員2人は特定され、大学側からの執拗な取り調べを受けたのちに懲戒解雇となったということです。

しかし、別の大学関係者が刑事告発を行ったことから、警視庁が捜査を開始。2024年3月、大学の本部や自宅などを一斉に捜索し、今回の逮捕に至りました。

 

週刊誌への告発は内部告発として保護されるか?


「公益通報者保護制度」では、組織内の人間が内部告発を行った場合、不利益な取り扱いを受けないよう保護されるべきであると定められています。

通報者が保護されるためには制度が定める通報先に通報する必要があります。
・役務提供先等(1号通報)
・行政機関等(2号通報)
・報道機関等(3号通報)

今回、最初の告発は週刊文春に対してのもので、3号通報に該当するかが一つの焦点となります。

3号通報は、通報対象事実の発生または被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する通報で、いわゆる「外部通報」の一種です。
通報先には報道機関以外に、消費者団体、事業者団体、労働組合などが挙げられます。

週刊誌がここに含まれるかは、個別事情に照らして判断されるところがあります。

この点、東京地方裁判所 平成23年1月28日判決では、内部告発先の週刊誌の記者が、告発者の告発内容の裏付け取材(事業者に対する反対取材)を全く行わないまま週刊誌を発刊した事案で、「少なくとも本件に関する限り、3号通報の示す報道機関等(その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者)には該当しない」としています。
誤報を生む危険性の高い取材姿勢を有する相手に対する告発は、3号通報として保護されないおそれがあるため注意が必要です。

また、3号通報として保護されるためには、適切な通報先を選ぶことに加え、真実相当性の要件(真実であると信ずるに足る正当な理由や根拠がある)と“特定事由該当性の要件”を満たす必要があります。

“特定事由該当性の要件”は、以下のような内容となっています。
(1)通報により不利益な取り扱いを受ける・証拠隠滅されると信ずるに足りる相当の理由がある場合
(2)正当な理由なく公益通報しないことを要求される、事業者に通報後20日経過しても調査されない場合
(3)個人の生命・身体に危害が発生しまたは発生する急迫した危険がある場合
(4)役務提供先に通報すると、事業者が通報者を特定させる情報を故意に、正当な理由なく漏らす可能性が高い場合
(5)生命・身体に対する危害や財産に対する回復困難又は重大な損害が発生し、または発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

このように、3号通報として保護されるためには、相応に高いハードルがあります。各要件を満たすか慎重に考慮したうえで、通報先を適切に選ぶことも大切になります。

今回、大学側は告発をした2人を特定し、最終的に懲戒解雇の処分を下したとされています。今後、これらの懲戒解雇処分の適法性などについても争われる可能性があります。元理事長の刑事事件と共に、注視する必要がありそうです。

通報者の方へ(消費者庁)

 

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