元バス運転手の肺がん発症、会社の証明なくても労災認定/事業主証明とは
2024/12/13 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 流通

はじめに
元バス運転手の男性が石綿が原因で肺がんを発症したとして労災申請するに際し、会社の証明が得られなかったにもかかわらず労災認定されていたことがわかりました。今回は労災申請の際に必要となる事業主証明について見ていきます。
事案の概要
毎日新聞によりますと、京都府内に住む男性は1961~96年、旧京阪宇治交通に勤務し、運転のかたわらバスの整備作業に従事していたとされます。当時のバスは内燃機関の周りやブレーキ装置の部品に石綿が使用されており、空気噴射で清掃すると石綿粉塵と見られる埃が舞っていたとのことです。男性は2022年に肺がんを発症し、家族が相談した「関西労働者安全センター」が会社側に勤務記録や事業主証明を求めたものの、協力は得られなかったとされます。男性は24年2月に、事業主証明なしで京都南労働基準監督署に労災申請をしたところ、同年8月に労災認定がなされました。男性には既に数百万円の労災給付金が支払われたとのことです。
労災と労災申請
正社員に限らず、アルバイト、パートタイムなど、労働者を1人でも雇用している事業主は労災保険に加入することが義務付けられておりまし。労災保険では、労災が発生した際に、療養給付や休業補償給付など様々な補償を労働者が受けることができます。ここで労働災害とは、労働者の業務上、または通勤中の負傷や疾病、死亡等を言います。業務災害の認定には「業務遂行性」と「業務起因性」が認められる必要があります。業務遂行性は事業主の支配下または管理下にあることを指し、配送中や出張中などでも認められる場合があります。業務起因性とは、業務と傷病等との間に因果関係があることを言い、業務に内包される危険性が現実化したと言える場合に認められると言われております。そして通勤災害の場合は、合理的な経路および方法による移動中の傷病等が対象とされております。このような労災が発生した場合に、労働者本人やその遺族が、または会社を通して労基署に労災申請を行うこととなります。
労災申請の流れ
労災と思われる負傷や疾病等が発生した場合、当該労働者はまず会社にその旨の報告を行います。報告を受けた会社は労基署に「労働者死傷病報告」を提出します。そして労災保険給付の請求書を作成し、労基署長に提出することとなります。これは労働者本人から行うことも、会社を通じて行うことも可能です。労働者本人が手続をすることが困難な場合は、会社が申請をサポートする、助力義務が課されております(労災保険法施行規則23条1項)。この労災申請に必要な書類は様式が定められており、厚労省のホームページからダウンロードすることができます。労災申請がなされると労基署長が調査を行い、労災給付決定が出ると保険給付がなされることとなります。なお労災申請にはそれぞれ時効があり、療養補償給付と休業補償給付の場合は2年、障害補償給付の場合は症状固定の日の翌日から5年とされております。
事業主証明とは
上記のように労災申請にはそれぞれの様式に従って請求書を作成し、労基署に提出することとなります。この請求書に、(1)負傷または発病の年月日と時刻、(2)災害の原因および発生状況等について、事業主が証明する欄があります。それが「事業主証明」と呼ばれるものです(労災保険法施行規則15条の2第2項等)。この証明を求められた事業主はすみやかに証明する必要があります(同23条2項)。そこに記載されている災害の原因や経緯などについて会社側も異論が無い場合は問題ないでしょうが、もしそこに異論がある場合、つまり会社側が把握している事情と異なる事実が記載されているといった場合はどうすべきでしょうか。この点、会社側に異論がある場合は事業主証明を拒否することも可能とされております。この証明がなくとも申請は可能で、労基署は独自に調査して決定することが可能だからです。なおこの場合に事業主は災害発生状況等について異論がある旨の意見書を提出することが可能です(同23条の2)。
コメント
本件でバス会社側に事業主証明を求めたものの得られず、証明が無いまま労災申請を行ったとされます。申請を受けた京都南労基署は職権調査により在籍記録を確認した他、石綿の影響を示す胸部変質「胸膜プラーク」を確認したとみられており、労災認定がなされたとのことです。以上のように労災が発生した場合、会社側は労基署に労働者死傷病報告を提出する他、請求書の事業主証明欄への記載が求められます。しかしこれは労災認定に決定的な意味を持つものではないと言われており、異論がある場合は拒否することも可能です。その場合は労働者に拒否した理由や、それがなくとも申請は可能であることを説明することが望ましいとされます。従業員が負傷等をした場合に、どのような対応が必要かを確認し、事業場内で周知しておくことが重要と言えるでしょう。
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