公取委が食品流通適正化へ3分の1ルールなどを実態調査/優越的地位の濫用規制
2024/09/18 コンプライアンス, 独禁法対応, 独占禁止法

はじめに
公正取引委員会は13日、飲食料品の流通に関する商慣行の実態調査を開始したと発表しました。いわゆる「3分の1ルール」などが独禁法上問題が無いか調査するとのことです。今回は優越的地位の濫用を見直していきます。
事案の概要
公取委の発表によりますと、公取委は飲食料品の製造販売・卸売業者・小売業者間の取引であるフードサプライチェーンにおける商慣行について独禁法の優越的地位の濫用の観点から実態調査を実施するとし、関係事業者に対してWebアンケートへの協力依頼状を発送したとされます。具体的には、(1)製造業者等に大量発注を行い、売れ残った食品を不当に返品すること、(2)返品コストを製造業者等に不当に負担させること、(3)3分の1ルールを理由に不当に受領拒否等を行うこと、(4)製造業者等が発注数量分を納品できなかった場合に自然災害、悪天候等の理由の如何を問わず製造業者等に不当に補償金の支払いを要請することなどが想定されております。なお3分の1ルールとは、製造から賞味期限までの期間の3分の1の日数以内に小売業者へ納品することが求められ、3分の1の期日が近い製品は受取拒否するといった行為です。
優越的地位の濫用とは
ここで優越的地位の濫用について見直していきます。優越的地位の濫用とは、(1)取引の一方の当事者が自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用し、(2)正常な商慣習に照らして不当に、濫用行為を行うことをいいます(独禁法2条9項5号)。このような行為は取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害し、ひいては自己や相手方にとっての競争者にも競争上不利な立場に陥らせる可能性があり、全体として公正な競争を阻害するおそれがあるとされます。違反した場合には排除措置命令(20条)だけでなく、課徴金納付命令の対象となっており、違反行為に係る期間(調査開始日から最長10年前まで遡及)における違反行為の相手方との取引額に1%を乗じた額が課徴金として課されます(20条の6)。
優越的地位の濫用の要件
優越的地位の濫用の要件としてはまず優越的地位が認められるかが問題となります。公取委のガイドラインによりますと、相手方にとって自社との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障をきたすため著しく不利益な要請等を行っても受け入れざるを得ないような場合とされております。その判断には取引依存度、自社の市場における地位、相手方にとって取引先変更の可能性、その他取引をすることの必要性などを総合的に考慮するとされます。次に正常な商慣習に照らして不当であることが要件となりますが、正常な商慣習とは公正な競争秩序の維持促進の立場から是認される慣習であり、現に存在する商慣習ではありません。この優越的地位の存在と公正競争阻害性がある状態で行われる濫用行為が違法となります。
問題となる濫用行為
公取委のガイドラインで具体的に挙げられている濫用行為としては、購入・利用強制、協賛金等の負担要請、従業員等の派遣要請、経済上の利益の提供要請、受領拒否、返品、支払い遅延、減額、その他相手方に不利益となる取引条件の設定等となっております。購入利用強制で問題となった例としては、金融機関が融資先企業に金利スワップの購入を余儀なくさせたもの、ホテルが納入業者に宿泊券の購入を要請したもの、自動車部品メーカーが部品加工業者に自動車の販売先を紹介させたものなどが挙げられております。また家電量販店や総合スーパー、百貨店などでよく問題となるのが従業員等の派遣要請です。棚卸しや棚替え、荷物の積み込み、荷下ろしなどの作業を無償でさせていた事例が多く報告されております。受領拒否については、相手方の責めに帰すべき事由がある場合などは問題ありませんが正当な理由なく拒否した場合が問題となります。返品についても同様で相手方に責任がなく、また正当な理由がない場合に問題となります。メーカーが定めた賞味期限よりも短い期限を独自に定めて、それを経過したことを理由とする返品や、単に売れ残ったというだけで返品する場合などです。
コメント
飲食料品業界における3分の1ルールは上でも触れたように製造日から賞味期限までの期間の3分の1が過ぎるまでに納品を求めるというものです。3分の1が経過していなくても期限が近ければ受領拒否をする場合があり問題視されております。公取委はこのような業界特有の慣行は製造業者等に不当なしわ寄せとなっている可能性があるとみているとされます。以上のように独禁法の優越的地位の濫用は正常な商慣習に照らした不当性が要件となっており、実際の商慣習が正常かは別問題と言えます。単にうちの業界では昔からこのようにやってきたとせず、相手方に不当な不利益を与えていないか、今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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