IHI原動機、船舶用エンジンの試験データ改ざんで国交省が立ち入り検査
2024/05/10 コンプライアンス, 行政対応, メーカー

はじめに
エンジンメーカーのIHI原動機が、船舶などのエンジン約4,300台の燃料消費率の測定データを改ざんしていたことが発覚しました。
国土交通省は立ち入り検査を実施するなどして、詳しい調査を行っています。
4000台以上でデータ改ざんか
2024年4月、重工業大手IHIの連結子会社である株式会社IHI原動機で、船舶用エンジンおよび陸上用エンジンの試運転記録に不適切な修正が行なわれていたことが発覚しました。
IHI原動機ではエンジンなどの製造販売を行っていますが、製造後に取引先に報告する「燃料消費率」について、実際に試運転で測定された数値とは異なる数値に修正されていたことが分かったということです。
今回の不正は、2024年2月下旬に従業員からの申告がきっかけで判明したもので、申告を受け、IHIとIHI原動機は社内調査を行っていました。
社内保管の試運転の実測値と、実際に取引先に提出した数値を照合し、関係者へのヒアリングなどを行った結果、IHI原動機新潟内燃機工場と群馬県にある太田工場で不適切な修正が行なわれていたことが確認されたといいます。
その後、確認可能な2003年以降のデータをチェックした結果、国内外に出荷された船舶用と陸上用のエンジン、合わせて約5500台のうち、実に4,361台でデータ改ざんが行われていたことがわかりました。また、4,361台のうち2,058台が取引先との間で取り決められた数値を満たしていなかったといいます。
一連の改ざんは、燃費データを実際よりもよく見せたり、データのばらつきを整えるために行われていたということです。
IHI側は、「エンジンに関連する法令や規格などに違反しているかは現在調査中」としつつ、船舶用エンジンの一部製品が海洋汚染防止法や、国際海事機関が定める窒素酸化物の排ガス規制に違反している恐れがあるとしています。
国交省は、規制遵守が確認できるまで、ディーゼルエンジンに対して航行に必要な証書を交付しないと伝えているほか、改ざんが行われたエンジンを搭載する船舶に法令違反の可能性がないかなどの確認を進めるよう指示を出しています。
ちなみに、報道などによると、社内調査の過程で「不正は1980年代後半から続いていた」との証言も出たということです。今後、会社は特別調査委員会を設置し、原因究明を行うとしていますが、さらなる不正が発覚する可能性もあります。
IHIには有効な再発防止策の策定が求められる
一般的にデータ改ざんや偽装が発生する原因しては、現場担当者や技術者に対する会社からの圧力があるケースや、顧客からの要望に過度に応えようとするケースなどが挙げられます。さらに、そこに不正が見つかりにくい人員体制、風通しの悪い社内風土などが相まって、大規模な不正に発展することがあります。
IHI原動機でデータ改ざんが行われた原因は今後の調査で特定されていくことになりますが、IHIでは2019年にも、航空機のエンジンや部品の検査を無資格の従業員が行っていた不正が発覚し、国土交通省から業務改善命令を受けています。当時も再発防止策をまとめていましたが、より実効性の高い再発防止策の策定が求められます。
再発防止策を絵に描いた餅としないために重要なポイントとして、以下が挙げられます。
・問題が発生した原因の根本的な理由を特定する
・ルールや規程などを見直す
・ルールなどを社員教育し、中長期的にモニタリングする
・達成目標や優先事項を明確にする
不正がどの段階で、なぜ、どのように発生したのか。まずは、原因究明をしっかりと行うことが最優先です。原因が特定されることで、不正を働いた役職員への対処が可能となります。また、改善策の検討や不正防止のルール作りを行い、その内容を社員へ周知し教育・啓蒙することも重要です。
こうした教育・啓蒙については、全社的に行うことが望ましいとされています。不正が発生した支店・工場以外の社員にも会社のルールや規則を理解してもらうことで。次の不正の予防に繋がると考えられます。
コメント
IHIの社長は、5月8日、決算発表の会見の場で今回の不正を陳謝しました。IHIは、別件で参画していたアメリカの航空エンジン製造プロジェクトで製造した航空エンジンに不具合が見つかったことで、航空会社に対する補償などを求められており、昨年度、グループ全体で最終的に682億円の赤字が生じたといいます。
そんな中での今回の不正発覚。顧客や取引先、投資家からの信頼を大きく失ってしまったことは、想像に難くありません。
信頼回復のため、今度こそ、実効性のある再発防止策の策定と実行が求められます。
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