マスク製造発注の取消で王子ネピアに勧告(下請法違反) ―公取委
2024/02/21 契約法務, コンプライアンス, 下請法

はじめに
紙パルプ加工品などを製造販売する王子ネピアが、下請け業者(以下、「本件下請業者」)への発注の一部を不当に取り消したのは下請法違反に当たるとして、公正取引委員会は2月15日、同社に対し再発防止などを求める勧告を出しました。

一方的に発注を一部打切り
公正取引委員会の発表によりますと、王子ネピアは従前より本件下請業者に自社が販売するマスクの製造を委託していたといいます。
しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大していた令和2年12月、王子ネピアは本件下請業者に対し、「将来的に、マスクの製造を王子ホールディングスのグループ会社に変更する」旨を伝え、それを前提として令和3年度以降の取引について協議を行ったとされています。その結果、
●納品期間:令和3年4月~令和4年3月
|
また、発注書上、「具体的な月ごとの納品数量については相談の上で決定する」旨が記載されており、実際、取引開始後は、毎月、王子ネピア側が、本件下請業者のマスクの生産状況を確認しながら、翌月に発注する納品数量を決定。これを半月前までに伝達し、本件下請業者側が承諾してマスクを納品するという運用だったということです。
本件下請業者は、発注書に記載された“過去の年間平均納品数量に相当する数量”を念頭に、マスクの製造に必要な資材・従業員等の確保を行い、令和3年12月に「発注書面記載の数量にほぼ相当する数量のマスクの納品が可能である」旨を伝達しましたが、それにもかかわらず、王子ネピア側は発注書に記載した数量の7割程度となる納品数量を伝達して来たといいます。
加えて、王子ネピア側は本件下請業者に対し「指定した納品数量を超えて生産したとしても、受領する意向はない」旨を伝達。これにより、令和3年度のマスクの発注の一部を取り消した形となりました。
本件下請業者側は、この王子ネピアによる発注一部取り消しにより、既に手配していた資材にかかる仕入代金、保管用の倉庫までの運送料、倉庫保管料や廃棄費用のほか、人件費など2622万円以上を負担することになりました。
公正取引委員会は、今回の発注取り消しは、王子ネピア側が同じマスクを自社のグループ会社で生産できるめどが付いたことや、マスク需要の落ち着いたことが要因であり、本件下請業者の責任ではないと判断し、下請法で禁じられている「不当な給付内容の変更」に当たると認定しました。
なお、王子ネピアは、公正取引委員会の調査開始後の令和5年11月22日に本件下請業者に対し、今回の発注取り消しで負った損害に相当する額を支払っているとのことです。
不当な給付内容の変更とは
下請法上、親事業者には11項目の禁止事項が課せられており、下請事業者の了解がある場合や、親事業者に違法性の意識がない場合でも下請法違反となるケースがあります。
今回は、その中の一つである『不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(第4条2項4号)』に該当すると判断されました。
これは、親事業者が下請事業者に責任がないにも関わらず、発注する内容を変更したり(発注取り消しを含む)、下請事業者から納品を受けた後に、再度やり直させるなどの行為で、下請事業者の利益を不当に害してはならないとするものです。
親事業者が、給付内容の変更またはやり直しをさせることで、下請事業者に追加費用が発生するためです。
そのため、親事業者がその追加費用分を負担した場合や、追加費用がかからない場合などでは、「下請事業者の利益を不当に害していない」と判断される可能性があります。
ちなみに、この規定の要件の一つとなっている「下請事業者に責任がないにも関わらず」とは、以下のいずれにも該当しない場合を指します。
(1)給付内容の変更が下請事業者の要請によるものである場合
(2)下請事業者の給付内容が発注書に記載された委託内容と異なる場合
(3)下請事業者の給付に瑕疵がある場合
今回のケースでは、本件下請業者はいずれにも該当しなかったため、王子ネピアの下請法違反が認められる形となりました。
コメント
公正取引委員会が下請法違反の有無を判断する際、発注書に記載された内容が非常に重視されることになります。特に、契約期間や数量など、取引の根幹をなす内容については、十分な検討と協議を経たうえで慎重に記載することが大切です。
また、親事業者の立場から発注の変更などを行う際には、下請事業者側に発生する費用負担の補償がポイントになります。下請事業者側に、どれだけの費用が増加するかを事前に確認したうえで、その分の費用負担も念頭に置きながら、交渉を進める必要があります。
下請法事案では、違法の認識がなくても処分されるおそれがあります。発注内容の決定や変更については、とかく現場に判断が任されがちですが、下請法違反行為を行わないよう、現場への徹底した周知が重要になります。
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