旧東洋ゴムの免震偽装、元役員4名に1億5000万円超の賠償命令 ー大阪地裁
2024/02/13 コンプライアンス, 行政対応, 訴訟対応, 会社法, メーカー

はじめに
2015年に、免震ゴムの性能偽装問題が公になった東洋ゴム工業(現在はTOYO TIRE)。会社は免震ゴムの性能データ改ざんを行い、国の基準を満たさないまま、これらを製造・販売していました。
事件を受けて、2016年に同社の株主の男性が提起した株主代表訴訟。大阪地方裁判所は、1月26日、旧経営陣に対して会社への損害賠償を命じました。
免震ゴムの性能偽装事件
株主代表訴訟のきっかけとなった免震ゴムの性能偽装事件は2015年に大きく報道されました。
「免震ゴム」とは、建築の基礎部分に免震材料として使われるもので、地震があった際に揺れを長周期化することで、地震被害を抑制するものです。
こうした免震ゴムの役割上、免震材料については、「国土交通大臣の認定を受けなければならい」などと定められており、違反すれば建築基準法違反となります。
東洋ゴム工業は、実際には免震ゴムが国の認定基準を下回るにも関わらず、認定の際にデータを改ざんして申請し、少なくとも2006~2011年に合計3回、大臣認定を不正に取得していたといいます。
さらに、会社は一連の不正の疑いを認識後、一度は、社内会議で出荷停止および国に報告する方針を固めたものの、結局そうした対応は行いませんでした。
その後に、この問題が生じた原因や背景などについて詳しく調査が行われましたが、不正の背景に以下のような要因があったということです。
・東洋ゴムの開発担当者が納期に間に合わせることへの強いプレッシャーを抱いていた
・さまざまなゴム製品があり、それぞれの製品に携わる人数が少なかった
・上司の監督が適正ではなかった
さらに、会社としても、現場に任せっぱなしの現状があったことがわかっています。
問題発覚後、マンションや自治体庁舎、病院など154棟では免震ゴムの交換が進められました。
東洋ゴム工業のほかにも、実際にゴム製造を行っていた子会社は不正競争防止法違反(虚偽表示)の罪で起訴され、罰金1000万円が科されています。
株主男性による株主代表訴訟の提起
そして、問題発覚の翌2016年、株主代表訴訟が始まりました。この訴訟は、株主男性が、問題発覚当時に社長を務めていた旧経営陣4人を相手取り、善管注意義務違反を理由に損害賠償4億円を会社に支払うよう求めたものです。
当初は、元取締役16名に対して提訴されていましたが、うち12名については途中で訴えが取り下げられています。
1月26日に下された判決で、大阪地方裁判所は、元役員らに対し、合わせて約1億5800万円の賠償を命じました。
賠償の内訳としては、以下のようになっています。
・4人全員に対し、合計2000万円の賠償責任
・内2人に対し、免震ゴムの交換費用約1億3800万円の支払い
(ゴム製品担当と品質保証担当だった取締役2人)
判決の理由として裁判所は、元取締役の2人は評価基準に適合しない製品が出荷されないようにするべき立場だったにもかかわらず、その注意義務を怠り会社に損害を与えた点を指摘。さらに、基準を満たしていないことが発覚後、すぐに国への報告を行わなかったことについて、「会社の信用を大きく失墜させた」などと述べ、経営陣の責任が明らかとなりました。
コメント
判決を受け、原告側代理人は、裁判所の「(不祥事の)公表が遅れると注意義務違反に問われる」とした判断を画期的と高く評価しました。今回の判決は、事実上、役員等による不祥事の隠ぺいに警鐘を鳴らした形となります。
東洋ゴム工業では、免震ゴムの不正問題が発覚するより前の2007年にも、断熱パネルの耐火性能偽装が発覚し、当時の社長が辞任したほか、2013年にはアメリカの価格カルテル事件で米司法省から約120億円の罰金が科されています。
こうした複数の不正が行われていたことで、取引先や消費者・行政などからの信頼を大きく失墜させたことは想像に難くありません。
・必達目標や期限による現場への過度のプレッシャー
・組織のタコ壺化
・経営陣のコンプライアンス意識の希薄さ
など、不正発生の原因はおおよそ共通しています。自社がこうした状況に陥らないよう、法務として、どの程度、影響力を発揮できるかがポイントとなります。
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