プールの水の出しっぱなしで賠償請求を受けた小学校教員、請求額を納入
2023/09/27 労務法務, 民法・商法, 労働法全般

はじめに
小学校プールの水を出しっぱなしにして損害を発生させたとして、川崎市が校長と担当教員に対し賠償請求を行った問題で、9月15日、教員側が請求額を納入したことがわかりました。教員に個人弁済を求めることに対し、これまでに約1万7000人の反対署名が集まるなど、大きな波紋を呼んでいます。
95万円を教諭らに請求
川崎市の発表などによりますと、2023年5月17日、川崎市の小学校で、男性教員(30代)がプール開きのためにプールに水をためるべく、午前11時ごろに給水装置と水のろ過装置を作動。その後ほどなくして、ろ過装置の警報音が鳴り響いたといいます。これは、ろ過装置に十分な水が入っておらず空だきのような状態となっているときに作動する警報で、一定の給水が行われると警報音が鳴りやむ仕様になっていました。しかし、教員はすぐに警報音を止めるために、電源のブレーカーを落としたといいます。
午後5時ごろ、教員は給水停止スイッチを押しましたが、その時までブレーカーが落ちたままであったことから、実際には停止スイッチが機能しなかったということです。
その結果、プールで作業予定のあった用務員が5月22日に気づくまでの5日間、水が出しっぱなしとなってしまったといいます。
この間に流出した水はプール約6杯分に相当し、損害額は水道代など約190万円にのぼりました。川崎市はその半額に相当する約95万円を、校長および教員に対し賠償請求したと発表しています。
“公務員”と“会社員”の個人賠償責任
公務員が職務の遂行により生じさせた損害の賠償について、国家賠償法第1条1項では、「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる」と定めており、国や自治体が原則として賠償責任を負うとしています。その一方で、第2項では、公務員に故意・重過失があった場合には、国や自治体が公務員個人に求償(賠償請求)できるとしています。
それでは、会社員の場合にはどのような扱いとなるのでしょうか。横領・情報漏洩などの明らかに違法性が高い行為はもとより、PCなどの貸与品の紛失・損壊、社用車運転中の事故、不適切な営業活動を理由とする後日の契約取消、社内手続きを踏まないで行った取引による売掛金回収の滞りなど、会社員が業務に関連して会社に損害を生じさせる可能性は十分にあります。
そうした中、会社員の個人責任が認められるケースとして、以下が挙げられます。
(1)従業員の職務関連行為が原因で、直接会社に損害が発生する場合
雇用契約に基づく債務不履行(民法415条)、または不法行為(民法709条)を理由に、会社は従業員に対し損害賠償できる可能性があります。
(2)従業員の職務関連行為が原因で、会社以外の第三者に損害を加えた場合
従業員の社用車による事故で人身傷害が発生したり、不正取引などで顧客に損害を与えた場合などが考えられます。この場合、従業員は不法行為者(民法第709条)として、被害者に対し、直接、損害賠償責任を負うことになります。また、会社が使用者責任(民法第715条1項)に基づき、被害者に損害賠償を支払ったときには、会社から従業員に対し求償請求が行われる可能性があります。
もっとも、会社に対しては、「会社が従業員の使用により新たな危険を拡大している以上、会社は従業員が実現させた危険についても責任を負うべき」とする“危険責任の原理”や、「会社者が自分のために従業員を使い利益を上げている以上、会社は従業員による事業活動の危険を負担すべき」とする“報償責任の原理”が適用されるとされており、信義則上、損害額全額を従業員に対し請求することは難しいといわれています。
実際、判例上も、犯罪を構成するような悪質な違法行為による損害でない限りは、減額が認められるケースが多いとされています。
○貸与中のPCを壊してしまったら?
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コメント
大きな物議を呼んでいる、川崎市のプール水道水の賠償問題。実は、プールの水の出しっぱなしに起因しての、教員への賠償請求は全国的に珍しいことではありません。その際、損害額の25パーセントから75パーセントの損害賠償請求を行っている自治体が多いといいます。その意味では、川崎市の今回の請求額は他のケースに比べて過大とはいえないかもしれません。
一方で、昨今、問題視されている教員の長時間労働問題。小中学校教員の7割以上が、一般企業に換算して月80時間超の残業を行っているとされています。そのため、「プールの注水まで教員の仕事として責任を負わせるのか」という批判もあがっています。
全国的な教員不足が深刻化する中、プールの管理業務を学校外部に委託するなどの対応も検討すべきかもしれません。
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