林家木久蔵ラーメン訴訟、商標権切れでもパブリシティ権を侵害と判断
2023/09/12 知財・ライセンス, 商標法, エンターテイメント, 食料品メーカー

はじめに
落語家の林家木久扇さんが、旧名・木久蔵のころに考案した“林家木久蔵ラーメン”に関し、ラーメンを製造・販売していた食品会社が「商標権の期限が切れているのに対価を支払わされた」などとして木久扇さん側に損害賠償を求めていた訴訟で、福岡地方裁判所は9月8日、食品会社側の請求を棄却する判決を下しました。
木久蔵ラーメンめぐる訴訟
日曜日の夕方、笑点に出演し、黄色い着物でお茶の間を笑わせる落語家、林家木久扇さん。先日、来年3月で勇退することを発表し、惜しむ声が聞かれました。
その笑点で「まずい」などと他の出演者からネタにされている木久蔵ラーメンをめぐり、訴訟が起きていました。
原告は、木久蔵ラーメンの製造、販売していた福岡市の食品会社です。報道などによりますと、2005年、食品会社は木久扇さんが所属する事務所と1食5円の対価を支払う契約を締結したということです。
しかし、商標権が2015年に切れていたことが判明したため、食品会社は、2021年6月、今後の対価の支払いを拒絶すると共に、期限切れ後に支払った対価の返還を求めたところ、事務所側から一方的に契約解除を通告されたということです。そのため、食品会社側は、出荷停止や在庫処分などの損害を受けたとして、2021年7月、事務所側に約4200万円の損害賠償を求める訴訟を提起していました。
福岡地方裁判所は、判決の中で、“林家木久蔵”は、過去の芸名で著名な名跡であり、登録商標でなくても無断使用は「パブリシティ権侵害に当たり得る」としました。
なお、一度は権利抹消された商標「林家木久蔵」ですが、事務所側により、2022年に再度登録されています。
商標権の使用許諾契約
商標権の利用をめぐって一般的に締結されるのが、ライセンス契約または使用許諾契約と呼ばれるものです。木久扇さんの事務所と食品会社の間でもこの契約が締結されていたとみられます。
この契約は自社の商標を他社に使用させ、その見返りで使用手数料を受け取る商取引契約です。その使用手数料は商標使用料、ロイヤリティなどと呼ばれています。
契約の中では使用権の許諾内容や、ロイヤリティなどについての取り決めのほか、登録商標の使用を許諾する期間と、使用許諾期間の更新手続についての項目があることが一般的です。契約更新手続については、主に二通りあり、①当事者の個別合意または②原則自動更新のどちらかが考えられます。
なお、使用許諾期間中に商標権の存続期間である10年が満了する場合には、商標権者による更新登録の申請についても定める必要があります。
権利維持のための特許(登録)料の納付の流れについて(特許庁)
パブリシティ権
しかし、今回のケースでは、“林家木久蔵”の商標権が登録から10年を迎え消滅していました。そのため、食品会社は、商標権の権利抹消後は、“林家木久蔵”という商標を使用しても問題なく、また、ロイヤルティを支払う必要がなくなったと判断したと考えられます。
しかし、裁判所は、“林家木久蔵”の使用がパブリシティ権の侵害に当たりえるとして請求を棄却しました。
パブリシティ権とは、芸能人やプロスポーツ選手などに代表される「著名人の氏名や肖像の持つ顧客吸引力」から生じる経済的な利益ないし価値を排他的に支配する権利とされています。法律上、明示的に認められた権利ではありませんが、アメリカの判例でパブリシティーの概念が創設されたことを受け、日本でも1976年以降、人格権に由来する権利として判例上認められてきた権利です。
最高裁平成24年2月2日判決(民集66巻2号89頁)では、パブリシティ権侵害の判断基準として、
・肖像等それ自体を独立させて鑑賞の対象となる商品等として使用する
・商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に使用する
・肖像等を商品等の広告として使用する
など、「専ら氏名,肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」にパブリシティ権の侵害が認められると示しています。
この判断基準に照らすと、今回の木久蔵ラーメンのケースでは、商品の広告として使用するために「林家木久蔵」という名前が用いられたとみなされた可能性があります。
コメント
今回、商標権を絡めた契約を締結していながら、権利存続の手続きを行わなかった事務所側の対応にも驚きですが、何よりも、食品会社側が商標権抹消の事実に6年間も気付かなかった点が、トラブルを大きくしたといえます。
ライセンシーとして商標権の使用許諾契約を締結・更新する際は、その都度、商標権の登録状況を丁寧に確認することが重要になります。
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