清水建設社員の過労自殺、労災認定
2023/07/21 労務法務, 労働法全般, 建設

はじめに
清水建設株式会社で2021年8月に起きた男性社員の過労自殺。亀戸労働基準監督署が5月にこの自殺を労災認定していたことがわかりました。
勤務時間過少に申告 過労で自殺
報道などによりますと、亡くなったのは、ゼネコン大手・清水建設で勤務していた当時29歳だった男性社員。2021年8月に独身寮で自殺していたということです。男性は東京大学工学部を卒業後、2016年に入社。下水処理施設の工事を行う作業所で工程管理や下請け会社との調整などを担当していたといいます。
自殺の原因は仕事にあるのではという遺族からの指摘を受け、清水建設側は2021年11月に外部の弁護士3人で構成された特別調査委員会を設置し、調査を行ったということです。その結果、男性社員が亡くなる直前3ヶ月間において、平均100時間の残業をしていたこと、それにも関わらず勤務時間を過少に申告していたことがわかりました。
勤務時間の申請は自己申告制だったといいますが、各社員が使用している業務用パソコンのログオン・ログオフされた時刻が自動的に記録されており、上司が①自己申告の内容と②パソコンの記録に照らし合わせて、時間差がないかどうかを確認していたということです。
ところが、パソコンのログオフ時間の自動記録には抜け道が存在していました。自分の業務用パソコンにログオンしたまま、同時に共用パソコンに自身のIDでログオンしたうえでログオフすることで、ログオフ時間の記録が完了。その後、自分の業務用パソコンで仕事を続けてもパソコン使用の記録は付かなかったということです。
調査の結果、同じ作業所の社員およそ10人中、男性を含む3人が同じような方法でログオフ時間を操作し、勤務時間を過少申告していたといいます。社員らが勤務時間の過少申告を行った背景として、「時短目標の達成が評価対象になる」と上司から伝えられた影響が指摘されています。
清水建設は、長時間労働が自殺の原因だったと結論づける報告書を受領した翌日、遺族に謝罪し、和解しています。
時間外労働 364時間
従前より、建設業界では時間外労働時間の長さが大きな問題となっていました。
日本建設業連合会によりますと、2021年度、全産業の常用労働者の残業時間が平均160時間だったのに対して、日本建設業連合会の非管理職は364時間と、204時間も多く時間外労働を多く行っていたことがわかっています。
建設業では来年4月1日から時間外労働の上限規制が適用されることになっています。時間外労働の規制自体は大企業は2019年4年から、中小企業は2020年4月から始まっていましたが、建設業などの一部業種は適用が5年間猶予されていました。
改正の結果、時間外労働の上限は原則、月45時間・年360時間となります。一時的な繁忙などの特別な事情がある場合は例外的にこれを上回ることができますが、その場合でも、単月100時間未満、複数月平均80時間以内、年720時間以内とする必要があります。
来年4月に迫る建設業界での上限規制。しかし、2021年時点では60%以上が上限規制を超過していると言われています。同規定の違反に対しては、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰⾦が科せられていることもあり、各社対応に追われています。
コメント
社員の労働時間の抑制を目的とした「時短目標」。この時短目標がプレッシャーとなって、労働時間管理の抜け穴が突かれる形になったのだとしたら、残念でなりません。
業界としての「週休2日制」の導入遅れ、若手を中心とした慢性的な人手不足、工期厳守のプレッシャー、これらが相まって建設業界では労働時間が長くなる傾向があるといいます。
「時短目標」の設定は、現場での一人一人の工夫・効率化を促す意図があると思いますが、長時間労働の背後には、個々人の対応では解決できない根深い問題が横たわっていることも少なくありません。そんな中で、時短目標へのプレッシャーを強めた場合、社員をいたずらに追い込むことに繋がりかねません。
長時間労働に対しては、まずは業界として会社として解決すべきマクロな問題を会社側が解決する。その後に、社員個々の工夫・効率化を促すというスタンスが重要になります。
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