熱中症対策がまもなく義務化、罰則も(改正労働安全衛生規則)
2025/05/26   労務法務, コンプライアンス, 労働法全般

はじめに


6月1日から改正労働安全衛生規則が施行されます。今回の改正は、職場での熱中症対策強化を主な目的としています。
本記事では、改正労働安全衛生法の概要を見ていきます。

 

改正の経緯


近年、熱中症による死亡者数が年間30人を超えており、労災による死亡者数の約4%を占めると言われています。
特に野外での熱中症による死亡者数は、熱中症全体の約7割を占めており、気候変動によるさらなる増加が懸念されています。

令和2年~5年の熱中症死亡災害の分析結果によると、原因のほとんどは初期症状の放置や対応の遅れであり、そのうち発見の遅れが約7割、異常時の対応の不備が約3割とされています。

そこで、「職場における熱中症予防基本対策要綱」や「STOP!熱中症クールワークキャンペーン実施要綱」などを参考に、現場で死亡に至らせないための適切な対策の実施が求められています。

以下、具体的に労働安全衛生規則の改正点について概観していきます。

 

労働安全衛生法による規制


労働安全衛生法22条では、「事業者は、次の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない」と定めており、第2号で、“健康障害”の具体例として、「放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害」を挙げています。

また、第27条では、事業者が講ずべき措置および労働者が守らなければならない事項を厚生労働省令で定めるとしています。今回の改正内容は、この厚生労働省令にあたる「労働安全衛生規則」への以下の規定の新設です。

(熱中症を生ずるおそれのある作業)第612条の2
事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、当該作業に従事する者が熱中症の自覚症状を有する場合又は当該作業に従事する者に熱中症が生じた疑いがあることを当該作業に従事する他の者が発見した場合にその旨の報告をさせる体制を整備し、当該作業に従事する者に対し、当該体制を周知させなければならない。
 
2 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、作業場ごとに、当該作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせることその他熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容及びその実施に関する手順を定め、当該作業に従事する者に対し、当該措置の内容及びその実施に関する手順を周知させなければならない。


つまり、暑熱な場所で連続して行われる作業等、熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際には、あらかじめ熱中症の自覚症状または疑いがあることを発見した場合に備えた報告体制を整備し、周知させなければならないということです。
また、第2項では、作業場ごとに作業からの離脱、身体の冷却、医師の診察や処置を受けさせるための措置およびその手順を定め、周知させなければならないとしています。

 

WBGT値(暑さ指数)とは


熱中症を生ずるおそれのある作業とは、WBGT値が28以上、または気温31度以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間を超えて行われる作業とされています。

厚労省のHPによると、WBGT値とは暑熱環境による熱ストレスの評価値であり、熱中症予防サイトなどで基準値を確認できます。

身体作業強度の区分は以下のようになっています。

区分0:安静、楽な座位

区分1:軽い手作業等

区分2:釘打ちや盛土など継続的な手や腕の作業

区分3:強度の腕および胴体の作業

区分4:激しくシャベルを使用するなど最大速度での激しい作業

それぞれに基準値が設けられており、たとえば区分0では33、区分1では30とされています。実際の作業場でWBGTが基準値を超える場合は、熱中症のリスクが高いことを意味します。その際には、熱中症予防対策が必要となります。

 

事業者が講ずべき熱中症対策


厚労省のHPでは、事業者が講ずべき熱中症予防対策の具体例が示されています。大きく分けて以下の4つに分類されます。

(1)作業環境管理
直射日光の遮蔽、冷房の設置、涼しい休憩場所の確保などが挙げられます。

(2)作業管理
作業時間の短縮、計画的に熱に慣れさせる、水分・塩分の摂取、通気性の良い服装などが含まれます。

(3)健康管理
健康診断結果に基づく対応や、睡眠不足・体調不良・前日の飲酒など、熱中症に影響を与えるおそれがある日常の健康管理についての指導や確認が求められます。

(4)労働衛生教育
熱中症の症状、予防方法、緊急時の救急処置、過去の事例などについての教育が求められます。

 

コメント


以上のように、2025年6月1日から改正労働安全衛生規則が施行されます。

これにより、WBGT(暑さ指数)が28以上、または気温31度以上の環境下で連続1時間以上、もしくは1日4時間を超える作業が見込まれる場合には、事業者に対し報告体制の整備と周知、熱中症悪化防止措置の準備と周知が義務付けられます。

違反した場合は6ヶ月以下の拘禁または50万円以下の罰金、法人にも50万円以下の罰金が科されます(122条)。さらに、労基署から作業や建物の停止命令などを受ける可能性もあります(98条)。

近年、気候変動により想定を上回る猛暑日が増えています。従業員が屋外で作業をする場合には、これらの基準に該当するかどうかにかかわらず、従業員の健康状態の維持に留意し、熱中症対策を講じることが重要です。

 

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