最高裁、トランスジェンダー職員の女性用トイレ使用制限は違法と判断
2023/07/13   労務法務, ハラスメント対応法務, 労働法全般

はじめに


戸籍上は男性ですが、性同一性障害と診断され普段は女性として生活する経済産業省の職員が、省内での女性用トイレの使用を不当に制限されたとして、国を訴えた裁判で、最高裁判所は11日、使用制限の撤廃要求に応じなかった人事院の判定を「違法」とする判決を言い渡しました。

 

トイレ使用制限は「違法」


経済産業省に勤めるトランスジェンダーの職員が提起した今回の裁判。性的マイノリティーの職場環境に関し、初の最高裁判断が示される形となりました。

報道などによりますと、原告は戸籍上は男性ですが、性同一性障害と診断され、女性として仕事や普段の生活を送る経済産業省の50代の職員です。健康上の理由から、戸籍の性別変更に必要な性別適合手術は受けていないものの、ホルモン治療を続けており、上司に相談のうえ、2010年から女性の服装で働いています。

職員は、自身が勤務を行うフロアにある女性用トイレの使用を希望しましたが、経済産業省は「他の女性職員への配慮」などを理由に、勤務するフロアから2階以上離れた女性用トイレの使用を求めたといいます。職員はこの制限の撤廃を求めて、人事院に行政措置要求をしたものの、2015年に退けられたことで提訴に踏み切りました。

2019年の一審判決では、東京地方裁判所は使用制限を違法と判断しました。しかし、2021年の二審判決では、東京高等裁判所は「経済産業省は他の職員の性的不安なども考慮した上で、原告に他のフロアの女性用トイレの使用を認めるなど配慮していて、不合理とは言えない」として適法と判断を覆し、女性側の逆転敗訴となっていました。

職員側は二審判決を不服として上告、最高裁判所の審理では、「トイレの使用制限は問題ない」との判断を下した人事院の判定の適法性が争点になりました。

先月、最高裁判所で開かれた弁論で、国側は「当時、トランスジェンダーに対し、性自認に従ったトイレの自由な使用を認めるべきとの社会的な広い理解が存在したとはいえない」と主張して、改めて経済産業省の対応が適切だったとの見解を示しました。

これに対し、最高裁判所は、「職員は、自認する性別と異なる男性用トイレを使うか、職場から離れた女性用トイレを使わざるを得ず、日常的に相応の不利益を受けている」と指摘。そのうえで、「人事院の判断は他の職員への配慮を過度に重視し、職員の不利益を軽視したもので著しく妥当性を欠く」として、5人の裁判官全員一致でトイレの使用制限を違法と判断しました。

今後、経済産業省はトイレの使用制限の見直しを求められることになります。

 

LGBT理解増進法施行で企業にも努力義務


先日、性的マイノリティーに対する理解を広めるための法律が制定されたのをご存知でしょうか?「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」、通称、「LGBT理解増進法」です。国や地方自治体、企業、学校などで性的マイノリティーに対する理解を広げる取り組みを促すのを目的とした法律で、2023年6月16日に国会で成立後、23日に施行されています。

このLGBT理解増進法では、第6条にて、企業に対し、雇用する労働者の理解増進に関する各種努力義務を課しています。具体的には、性的マイノリティーに対する理解を深めるための普及啓発・就業環境の整備・相談機会の確保、国や地方自治体の理解増進施策への協力などです。

今後、企業においても、性的マイノリティーに対する増進に向けて具体的な対応が求められることになります。

■企業が行っている取り組みの事例
・企業行動憲章の改定、条文を追加し、性的指向・性自認に基づく差別をしない旨の表明
・就業規則への性的指向・性自認に関する差別禁止の明記
・就業規則の変更追加により、人事異動やセクハラで性的指向や性自認に起因した差別を行わず、また差別が懲戒理由になる旨の明記
・性的マイノリティーに関する社内研修の実施
・相談窓口の開設
・採用ポリシーにおいて差別を行わないことの明記
・同性及び事実婚のパートナーを法律婚の夫婦と同等とみなす制度の創設
・性的マイノリティーの社員が、ホルモン治療により従前の性別の見た目から変化した場合、本人の希望により人事異動が認められる制度の創設


多様な人材が活躍できる職場環境づくりに向けて~性的マイノリティに関する企業の取り組み事例のご案内~(厚生労働省)

 

コメント


「自認する性別に基づいて社会生活を送る利益をどのように尊重していくか」という議論に一石を投じる形となった今回の判決。宇賀裁判官が補足意見の中で述べていた「他の職員が違和感を抱いているとしたら、職場でのトランスジェンダー理解が十分でないことが考えられる」という言葉が印象的でした。

漠然とした違和感や不安感が職場内で噴出している事実こそ、性的マイノリティーに対する理解促進の不足の表れと捉え、研修等を通じて、それらを丁寧に払しょくし、前向きな議論に変えていく。企業においても行政においても、そうした姿勢が求められているのではないでしょうか。

 

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