楽天モバイル元部長ら、水増し請求による詐欺の疑いで逮捕
2023/03/09 コンプライアンス, 刑事法, 公益通報者保護法

はじめに
携帯電話大手の楽天モバイルからおよそ25億円をだまし取ったとして、警視庁は3月3日、楽天モバイルの元部長と業務委託先の元幹部ら3人を詐欺の疑いで逮捕しました。携帯事業に新規参入した楽天モバイルが携帯電話基地局を整備するために交わした設備運搬の業務委託に絡み、業務委託費を水増しし同社より金を騙し取ったということです。
事件の経緯
楽天モバイルの発表や報道などによりますと、当時、物流管理部長だった元従業員が業務委託先の会社関係者と共謀し、資材の保管や運送に係わる業務において携帯電話基地局の整備に関する費用をおよそ9億2000万円水増しするなど、およそ25億円を楽天モバイルに不正に請求していたとされています。
具体的には、資材を運ぶ車両の発注台数を多く装う、資材を保管する倉庫の面積を実際よりも広く偽るなどして輸送費や保管料を水増ししていたとみられていて、これらの業務全般について、元部長が統括的に管理し、決裁権限も有していたということです。
また、架空のコンサルティング料などの名目で水増し請求していたケースもあったとされています。
水増し請求で不正に得た利益は、再委託先の会社から元部長らに流れていたということです。
水増し請求の法的取り扱い
今回、水増し請求により3名が逮捕されています。水増し請求詐欺事案では、社員と取引先の担当者が協力して、[取引先が水増し請求書を発行]→[会社が取引先に支払い]→[社員が取引先から水増し分の還元を受け着服]といった流れをとるケースが多いとされています。この場合、社員と取引先の担当者に詐欺罪の共同正犯が成立します。
また、民事上、社員と取引先の担当者は共同不法行為者として、会社に対して損害賠償義務を負います。この賠償義務は、不真正連帯債務とされ、債権者である会社は、社員または取引先の担当者のいずれの債務者に対しても、損害額の全額を請求することができます(会社は、債務者の支払能力を見ながら、誰にどれだけ請求するかを決めることができます)。
決裁権とは
今回の事件を受け、楽天モバイルは、購買業務に関する決裁権限や購買担当部署の業務フローの見直しを行うとしています。
決裁権とは、物品の購入や契約の締結など、社内における判断事項を最終的に決定する権利を指します。基本的に、役職に就いている人間に与えられ、決裁権が与えられた事項については、役職者がその裁量により決定することができます。
具体的には、部長職では100万円まで、取締役だと1000万円までの契約を決められる、それ以上は取締役会や常務会などの合議で決めるケースや、ある一定の金額以上は稟議で決裁するケースなどもあります。一方で、中には係長が3億円を決裁する企業も存在するなど、どの役職の人間が、どの事項につき、どの金額の範囲で決裁権を有するかは、企業ごとに定められています。
今回の事件の被害額を見る限り、逮捕された元部長には高額な取引に対する決裁権限が与えられていたと推測されます。
決裁権は、ある意味、社内における究極の権限ともいえるため、不正の温床になりやすい傾向があります。
水増し請求を予防するために
水増し請求は、加害者全員がメリットを享受し合うことが多く、また、クローズドな関係性の中で展開されることも少なくないため、加害者からの自発的な申告や関係者からの内部通報が機能しづらい不正類型といえます。そのため、水増し請求の発覚は、税務調査における取引先への立ち入り調査を端緒とすることが多いとされています。
そんな、水増し請求を予防するうえでは、社員と取引先の関係性のチェック・牽制を強化する手法が有効です。具体的には、上位の役職者が、ときに抜き打ちで取引先を訪問して委託した業務の実際の様子を見学させてもらう、委託業務のアウトプットを見せてもらうなどの方法が考えられます。また、取引先の社長に定期的に挨拶に行くだけでも牽制効果があります。
さらに、初回の取引のみならず、継続中の取引に関しても定期的に相見積もりを行い、取引先選定の適切性を担保することも有効です。また、取引先との数字の中身を知るものが必ず2名以上いる体制を敷く等の工夫も重要になります。
コメント
今回の事件を受け、楽天モバイルは元部長を懲戒解雇し、事件に関わった取引先2社との取引を停止した上で、預金口座の仮差押さえを申請したとされています。
水増し請求事案では、会社の口座に入金されたお金を自由に引き出して還元できる人間ということで、取引先の社長や役員と協力して不正が行われるケースが少なくありません。その意味で、社員が取引先の役員と密接な関係性を築いている場合、不正の発生リスクが相対的に高い取引としてアラートを働かせる必要があります。
検知が難しい水増し請求。法務としても、社内規程の周知やコンプライアンス教育の徹底などで、予防に貢献したいところです。
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