4月から60時間超の割増賃金引き上げ、改正法の概要について
2023/02/27 労務法務, 労働法全般, 法改正

はじめに
60時間を超える時間外労働の割増賃金を引き上げる、改正労基法(平成20年改正)が今年4月から中小企業についても施行されます。大企業と同様に50%以上となるとのことです。今回は労基法の平成20年改正について概観していきます。
法改正の経緯
今回施行が予定されているのは平成20年12月に成立・公布されたもので、かなり古い改正法となっております。当時の改正趣旨によりますと、少子高齢化が進行し、労働力人口が減少する中、子育て世代の男性を中心に長時間労働の割合が高い水準で推移していることに対応し、労働者が健康を保持しながら労働以外の生活のための時間を確保して働くことができるよう労働環境を整備することを目的としております。改正の骨子は、1ヶ月の時間外労働の60時間を超える部分につき25%から50%に引き上げること、引き上げ分の割増賃金に代えて有給付与も可能とすること、時間単位での有給取得を可能とすることとなっております。施行は平成22年4月1日となっておりますが、割増賃金引き上げ分については対象が大企業のみとなっており、中小企業については猶予されておりました。今回その分についてもいよいよ施行となります。
労働時間規制と時間外労働
これまでも何度も取り上げてきたように、労働基準法ではかなり厳格に労働時間について規制が置かれております。まず原則として使用者は労働者に1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないとされております(32条1項、2項)。それを超えて時間外労働をさせるためには、労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者と書面で協定を締結し、労基署に届け出る必要があります(36条1項)。これを一般に36(サブロク)協定と呼びます。この時間外労働は2019年4月(中小企業は2020年4月)から上限が設けられており、原則として月45時間、年360時間までとされております(同4項)。臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合は、年720時間以内、月100時間未満、複数月の平均が80時間以内、月45時間を超えることができるのは年6ヶ月とされております。
時間外労働等の割増賃金
使用者が労働者に時間外労働をさせた場合、または休日労働をさせた場合は、その時間は通常の賃金の25%の割増賃金を支払う必要があります(37条1項)。そして時間外労働が60時間を超える場合、その超えた分については割増賃金は50%となります(同ただし書き)。これは上で触れたように現時点では大会社だけに適用されております。この60時間を超える分については、労組または労働者の過半数を代表する者と書面で協定を締結することにより、割増賃金の支払いに代えて有給休暇(代替休暇)を与えることができるとされております(同3項)。また午後10時から午前5時までは深夜労働として25%の割増賃金の仕払いが必要です(同4項)。この割増賃金額については労使協定でこれよりも高い割増賃金率を定めることも可能とされております。
中小企業該当性
上記のように60時間を超える時間外労働についての割増賃金引き上げはすでに大企業では適用されており、中小企業は今年4月からとなります。それではどのような場合に中小企業と扱われるのでしょうか。厚労省の資料によりますと、資本金の額または出資総額と常時使用する労働者の数で定まるとされております。具体的には(1)小売業の場合、資本金の額5000万円以下で労働者数が50人以下。(2)サービス業では5000万円以下で労働者数が100人以下。(3)卸売業では1億円以下で労働者数が100人以下。(4)その他の業種では3億円以下で300人以下となっております。これらを超える場合は大会社と扱われることとなり、現時点で割増賃金の引き上げが適用されております。
コメント
以上のように平成20年に成立・公布された改正労基法が中小企業についても今年4月から施行されることとなります。中小企業でも時間外労働が月60時間を超える場合は割増賃金が50%となります。なお上でも触れたように時間外労働は36協定を締結している場合でも原則月45時間とされており、これを超えるにはその旨の特別の合意を要します。これが無い場合は50%の割増賃金を支払っていても違法となるとされております。またみなし残業制を採用している場合でも、みなし残業時間を超えた場合はその分の残業代、時間によっては割増賃金の支払いが必要となってきます。これを期に自社の勤怠管理に問題は無いか見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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