客「ヘイ、タクシー!ちょっと、福島第一原発の近くまで乗せてくれ」 運転手「い…い…いや…じゃないです」
2011/03/26 業法対応, 民法・商法, その他

タクシー運転手よ。向かえ!福島第一原発へ。
国土交通省は、栃木・茨城・千葉の3県のタクシー協会に対して、福島第一原発の事故に伴う避難指示や屋内退避指示が出ている地域を除き、正当な理由がない限り、それらの地域に向かう客を乗車拒否しないよう指導していたそうだ。
どうやら、ここ数日、「放射線の危険がある」との理由で、福島県に向かう客を乗車拒否するタクシーが増加していることを受けての処置らしい。
放射線の危険から逃れたいと考えるのは人の心理として、ある意味当然と言えるのだが、タクシー運転手は、なにゆえ、放射線の危険のある地域でも運転することを指導されるのであろうか。その秘密は、道路運送法13条にあるようだ。
【道路運送法第13条】
一般旅客自動車運送事業者は、次の場合を除いては、運送の引受けを拒絶してはならない。
一 当該運送の申込みが第十一条第一項の規定により認可を受けた運送約款(標準運送約款と同一の運送約款を定めているときは、当該運送約款)によらないものであるとき。
二 当該運送に適する設備がないとき。
三 当該運送に関し申込者から特別の負担を求められたとき。
四 当該運送が法令の規定又は公の秩序若しくは善良の風俗に反するものであるとき。
五 天災その他やむを得ない事由による運送上の支障があるとき。
六 前各号に掲げる場合のほか、国土交通省令で定める正当な事由があるとき。
雑感
道路運送法は、主に、「輸送の安全を確保し、道路運送の利用者に便利に道路運送事業を利用してもらうため」の法律である。今回の話に合わせて、より、わかりやすく言うと、「タクシー輸送の安全を確保し、タクシー利用客に便利にタクシー事業を利用してもらうため」の法律である。
一方で、法律の運用は、相対立する利益相互のバランスのもとに行われるべきであると筆者は考えている。
皆さんは、「タクシー利用客の利便性」と「タクシー運転手の健康」とを比較した時に、どちらを重視すべきだとお考えになるだろうか。筆者は、放射線による健康被害が長期間に及ぶ甚大なものとなりうることを考えると、「タクシー利用客の利便性」よりも「タクシー運転手の健康」の方をより重視すべきだと考えている。
したがって、乗客の希望する目的地へ運転することによってタクシー運転手の健康に危険が生じる場合には、道路運送法13条5号の「その他やむを得ない事由による運送上の支障があるとき」にあたるとして、乗車拒否することも許されるべきだと思う。
国土交通省が、避難指示や屋内退避指示が出ている地域を目的地とする乗客については、乗車拒否してもよいとも取れるような指導をした理由も、あるいは筆者と同じ考えに基づいてのものなのかもしれない。
しかし、国土交通省の「タクシー運転手の健康に危険を与える地域」についての認識は、政府発表を鵜呑みにしたものであり、国民及び諸外国メディアが原発事故に関する政府発表に疑いの目を向けている現状に照らすと、やや、事務的に過ぎる気がする。政府発表の信用性の問題は、こんなところにも影を落としているのである。
一刻も早い福島第一原発問題の解決をお祈り申し上げます。
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