ADKが談合で自主申告、独禁法のリーニエンシー制度について
2022/11/25 コンプライアンス, 独禁法対応, 独占禁止法

はじめに
東京五輪・パラリンピックのテスト大会事業を巡る入札談合疑惑で、広告会社大手のADKが公取委に違反を自主申告していたことがわかりました。それを受け東京地検特捜部は電通などの家宅捜索に乗り出したとのことです。今回は独禁法の自主申告制度について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、東京五輪・パラリンピックを巡っては大会組織委員会元理事の高橋治之被告(78)らがスポンサーであった紳士服大手「AOKIホールディングス」等から賄賂を受け取っていたなどの汚職が発覚しており、それに伴い東京地検特捜部は入札談合の疑いがあるとみて捜査していたとされます。そして五輪本番前のテスト大会事業で落札した広告大手旧アサツーディ・ケイ(ADK)が公取委に受注調整があったと自主申告したとのことです。これを受け東京地検特捜部と公取委は合同で、談合に参加した疑いがあるとして広告大手「電通」などの家宅捜索に乗り出しました。現在押収した資料を分析して入札の経緯などを調べているとされます。
不当な取引制限とは
今回問題となっている入札談合は独禁法が禁止する「不当な取引制限」に該当する行為です。独禁法2条6項によりますと、事業者が他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、もしくは引き上げ、または数量、技術、製品、設備もしくは取引の相手方を制限する等、相互に事業活動を拘束し、遂行することにより公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとされております。つまり「意思の連絡」と「相互拘束」によって市場における公正な競争を制限することです。入札談合の場合は、事業者同士で「基本合意」を行えば不当な取引制限に該当すると言われており、それに基づく個別調整行為があれば基本合意の存在が推認されるとされます。基本合意とはどの業者が受注するのか、また受注するために他の業者がどのように協力するのかの決定方法を合意しておくことを言います。違反した場合には排除措置命令(7条)と課徴金納付命令の対象となり(7条の2)、また刑事罰として5年以下の懲役、500万円以下の罰金、法人の場合は5億円以下の罰金となっております(89条1項1号、95条1項1号)。
独禁法の課徴金対象行為
独禁法の課徴金とは、一定の違反行為に対して公取委から課される金銭的不利益のことで、違法な行為によって得た利益を剥奪するという意味合いがあります。その算定方法は違反行為にかかる期間中の売上に一定の算定率を乗じたものとなります。算定率は最大で10%となっており、違反を繰り返した場合には2倍になることもあります。課徴金の対象となっている行為は、不当な取引制限(7条の2)、支配型私的独占(7条の9)、排除型私的独占(同2項)、共同の取引拒絶(20条の2)、差別対価(20条の3)、不当廉売(20条の4)、再販売価格の拘束(20条の5)、優越的地位の濫用(20条の6)となっております。なお課徴金と同時に罰金が課される場合は、罰金額の2分の1の金額が課徴金から控除されることとなっております(7条の7等)。
課徴金減免制度
独禁法に違反する行為がなされても、公取委への報告と調査協力によって課徴金の減免を受けることができます。これが課徴金減免制度(リーニエンシー制度)です(7条の2,20条の2~20条6)。大幅な減免を受けることができることから、違反事業者に自主的な申告のインセンティブを与える趣旨と言えます。具体的には調査開始前の申請で、1位が全額免除、2位が20%、3位~5位が10%、6位以下が5%となっております。2位以下はこれらに加え公取委への協力度合いにより最大40%が追加されます。つまり2位は最大で60%の減免を受けることができるということです。調査開始後の申請の場合は最大3社までが10%、それ以降は5%となっており、やはり協力度合いで最大20%が追加されます。申請には様式があり、様式1号と3号は電子メールのみとされております。
コメント
本件では大会組織委員会が発注した各協議のテスト大会の計画立案などの業務で計26件の競争入札が行われ、電通やADKなどの広告会社9社と共同事業体の1団体が落札したとされます。自主申告したADKによりますと、入札に際して事前に受注調整があったとのことです。あらかじめどの会社が受注するかの決定や協力が合意されていた場合、不当な取引制限となると言えます。今後の特捜部と公取委の捜査が注目されます。以上のように入札談合などが行われた場合、高額な課徴金が課されることとなりますが、自主申告によって免れることがあります。そのため減免を受けるために他社に先んじられ、違反が発覚するといった事態も多いと言えます。社内調査で違反の疑いが発覚した際には迅速に公取委に相談の上、減免申請していくことが損失を軽減する上で重要と言えるでしょう。
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