防衛省、ハラスメントの有識者会議を設置
2022/11/04 労務法務, コンプライアンス

はじめに
防衛省は、11月1日、自衛隊の新たなハラスメント防止対策を提言する有識者会議を設置しました。元陸上自衛官の女性が性被害を受けた問題が世間に取りざたされ、また、省内でも相談窓口への相談増加が顕著であることを受け、防衛省は、設置方針を示すようになりました。防衛省によると、刑法を専門とする只木誠教授や精神科医・弁護士ら5人が委員に選ばれたそうです。
自衛隊におけるセクシュアルハラスメント問題
自衛隊におけるセクハラ問題に焦点が当たったのは、元陸上自衛官の女性(23)が所属の中隊において日常的なセクハラ(性的な揶揄・発言、演習場の宿泊施設での押し倒し等の身体への接触)があったと、性被害を訴えたことに端を発します。
防衛省の調査の結果、
・日常的なセクハラが行われていたこと
・宿泊施設での押し倒し被害に関し、口止めがされたこと
・被害女性から被害報告を受けた中隊長が、その上司である大隊長への報告を怠ったこと
・他に複数の女性隊員のセクハラ被害があったこと
などが判明しました。これを受けて、人事教育局長と陸上幕僚監部の人事教育部長が9月29日に被害女性と直接面会し、謝罪を行いました。関与した隊員の特定を進め、速やかに懲戒処分にするとしています。また、同日の記者会見で、陸上自衛隊トップにあたる陸上幕僚長も謝罪を行っています。
被害女性は3月に、自衛隊内の捜査機関にあたる「警務隊」に被害届を提出。その結果、加害男性3人が強制わいせつ容疑で書類送検されました。しかし、加害男性らの口裏合わせや隠ぺいなどの影響か、5月にはいずれも不起訴となっています。
その後、被害女性は自衛隊を退職。顔と実名を公開して、ようやく防衛省による謝罪が得られた形です。
なお、加害男性の不起訴に対しては、9月、検察審査会が不起訴不当を議決し、検察による再捜査が始まっています。
職場におけるハラスメント問題
一般的に、今回の自衛隊のように、上下関係が厳しく外部環境から隔離された閉鎖的な組織では、ハラスメントが横行しやすいと言われています。それは企業においても例外ではありません。
「令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によりますと、全国の20~64歳の男女労働者8,000名のうち、過去3年間で勤務先でパワハラを受けたことがある人の割合が31.4%、セクハラが10.2%となっています。
また、ハラスメント被害の経験者と未経験者の職場の特徴の回答を比較したときに、各ハラスメントにおいてキーとなるファクターが見えてきます。
※以下、経験者の回答割合が未経験者より高く、その差が大きかった項目。
[パワハラ]
・上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない
・ハラスメント防止規定が制定されていない
・失敗が許されない/失敗への許容度が低い
・従業員間に冗談、おどかし、からかいが日常的に見られる
[セクハラ]
・ハラスメント防止規定が制定されていない
・従業員間の競争が激しい/個人業績との評価の連動が徹底している
・従業員間に冗談、おどかし、からかいが日常的に見られる
ハラスメントと企業の法的責任
ハラスメントが行われた場合の企業の法的責任としては、①企業の使用者責任(民法715 条)、②企業の安全配慮義務違反,職場環境配慮義務違反(債務不履行責任〔民法415 条〕)が挙げられます。ちなみに、①企業の使用者責任に関し、民法715条1項は、「ある事業のために他人を使用する者は,被用者がその事業の執行について第三者に 加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは,この限りでない。」と規定しており、企業が、加害者に対して相当な管理を行っていた場合は、責任を免れる余地があるとしています。
コメント
労働者の人権意識の向上を受け、世間で認知されるハラスメントの種類も年々増加して来ました。また、こうした風土の醸成の成果もあり、旧来から問題視されていたハラスメント(セクハラ・パワハラ等)に関しても、裁判上違法と認定されやすくなってきている向きがあります。それだけに、コンプライアンス担当者としては、社内でのハラスメント予防に十分な注意を払う必要があります。
ご紹介した「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」を見る限り、やはり、人間関係・社内風土がハラスメントの発生確率を大きく左右すると考えられます。まずは、ご自身がお勤めの会社が、上述したハラスメントのキーファクターにどのくらい当てはまるか、一度確認してみるのもよいかもしれません。
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