定時株主総会で初めて書面投票超え、電子投票制度について
2022/08/24 総会対応, 会社法

はじめに
今年6月に開催された定時株主総会で、電子投票が初めて書面投票を上回ったことがわかりました。個人株主に浸透してきたとのことです。今回は株主総会での書面投票と電子投票を見直していきます。
事案の概要
日経新聞の報道によりますと、今年6月に三井住友信託銀行が業務受託した857社を対象に機関投資家と個人投資家の議決権行使状況を集計したところ、総会前に議決権を行使した株主は全体の41%で、このうち電子投票経由が52%にのぼったとされます。新型コロナウイルスの影響で各企業が個人投資家向けに電子投票システムの導入を進めたことが背景とされ、機関投資家よりも圧倒的に多い個人投資家に電子投票が広まってきたとのことです。招集通知の電子化が始まる来年からはより電子投票の普及が進む見通しです。
株主総会招集手続き
株式会社の定時株主総会は、事業年度終了後一定の時期に招集することが必要です(会社法296条1項)。取締役会設置会社では取締役会決議で、取締役会非設置会社では取締役の過半数で招集する旨、日時、場所、会議の目的等を決定します(296条3項、298条4項、299条)。株主への招集通知は公開会社で開催日の2週間前までに、非公開会社では1週間前までに行う必要があります(299条1項)。書面・電子投票を採用する場合は2週間となります。招集通知は取締役会非設置会社では特に規定はありませんが、取締役会設置会社または書面・電子投票を採用する場合は書面によることとなります(同2項)。なお開催地については旧商法では本店所在地またはその隣接地と規定されておりましたが、現行法ではそのような制限はありません。
書面投票
書面投票は、株主が株主総会に出席することなく、招集通知に添付された議決権行使書面を使用することによってする投票を言います(311条1項)。書面投票は上記の通り招集決議の際に採用するかを決めますが、株主の数が1000人以上である場合または招集通知に委任状を交付する上場会社は書面投票が必須となります(298条2項、施行規則64条)。株主の承諾を条件に書面による通知に代えて電磁的方法による通知と書面投票とすることも可能です(299条3項、301条2項)。なお令和5年3月1日以降は法改正により定款に定めることによって株主の承諾なく電磁的方法による通知が可能となります。
電子投票
電子投票も書面投票と同様に株主が株主総会に出席することなく電磁的方法により議決権を行使することを言います(312条1項)。こちらもはやり株主総会招集決定の際に採用する旨を決議することとなります。この場合でも招集通知は原則として書面で行う必要がありますが、株主の承諾により電磁的方法で通知を行うことができるのも書面投票と同様です。なお電子投票は原則として会社の承諾を要しますが、株主の承諾により電磁的方法で通知をした場合は、会社は正当な理由なく電子投票を拒否することができません(同2項)。そして電子投票による議決権の行使は原則として株主総会開催日直前の営業時間終了時までに行うことが必要です(施行規則70条)。
コメント
新型コロナウイルスの感染拡大以前の定時総会における投票方法は、会場での投票以外では圧倒的に書面投票が多数を占めており、電子投票の利用は多くないとされておりました。しかし昨年から急速に増加し、今年の定時総会では電子投票が過半数となり書面投票を超えたとされます。さらに法改正の施行により来年3月以降の株主総会では定款に定めることによって招集通知も電磁的方法によることが可能となります。これによってオンラインによる総会手続きがより促進される見通しです。なお書面や電子投票を採用する場合、株主が事前にそれらによる投票を行わなかった場合でも、総会当日に会場に出席して投票することは可能とされます。また事前投票と当日投票が重複する場合に備えて取り扱いを決定しておくことが必要です。来年の定時総会に備えて手続きを確認し直しておくことが重要と言えるでしょう。
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