労基署が地質調査会社に無効勧告/裁量労働制とは
2022/08/19 労務法務, 労働法全般

はじめに
不適切な手続きで、仕事の裁量がない社員に裁量労働制を導入していたとして、労基署が地質調査会社に是正勧告を出していたことがわかりました。未払い残業代の支払いも求めているとのことです。今回は裁量労働制について見直していきます。
事案の概要
報道等によりますと、道路や建物、ダムなどの建設工事のための事前地質調査などを行う会社に2019年に入社した20代の男性は、2年目から裁量労働制を適用され現地ボーリング調査などに従事していたとされます。繁忙期には月100時間前後の残業が発生していたにもかかわらず、30時間分の残業代に相当する裁量労働手当月57000円のみが支払われていたとのことです。また適切な労使協定も締結されていなかったとされます。労基署は同社の裁量労働制を無効とし、未払い残業代の支払いを求める是正勧告を出しました。
裁量労働制とは
裁量労働制とは、実際の労働時間とは関係なく、あらかじめ定められた時間を労働時間とみなす、労基法上のみなし労働時間制のひとつとされます。業務の性質上、仕事のやり方や時間配分を労働者の裁量に委ねたほうが適切な場合を想定されております。そのためどのような業務に適用できるかは厚労省の定めによるところとなり、「専門業務型」と「企画業務型」に限定されております。この制度により、労働者の能力に応じた柔軟な働き方が可能となり、優秀な人材を確保しやすく、離職率も抑えられ、また生産性の向上や企業の業績向上にもつながると言われております。他方でチームや集団で取り組むべき業務では利用しにくいとされております。
裁量労働制の導入
裁量労働制は上記のように導入できる業種が限定されております。「専門業務型」の場合は新製品や新技術の研究開発、システムの分析、新聞や出版、放送、デザイン、コンサルタント、ゲーム制作、アナリスト、公認会計士や弁護士等のいわゆる士業、大学教授などとなっております。これらの業務は専門性が高く通常の労働形態になじまない場合と言えます。「企画業務型」は、企業での企画立案や調査、分析などいわゆるホワイトカラーとされる職種を言うとされております。専門業務型で導入する場合は、対象業務、業務手段や時間配分の指示をしないこと、1日のみなし労働時間、協定の有効期間、福利厚生、苦情処理等について労使協定を締結し、労基署に届けます。企画業務型の場合は事業場内に労使委員会を設置し、同様の内容を5分の4以上の多数決で決議し、労基署に届ける必要があります。
裁量労働制の注意点
裁量労働制は所定労働日に一定のみなし労働時間分の勤務をしたとみなす制度です。そのため平日以外の日の勤務については割増賃金が発生します。みなし労働時間が8時間と定めた場合は、所定労働日に仮に10時間働いても8時間働いたものとみなされますが、みなし労働時間を労基法の法定労働時間である8時間を超えて、例えば9時間と定めた場合は、1時間分の割増賃金の残業代が発生します。この分は給与に含める必要があるということです。それ以外にも深夜労働や休日労働等の割増賃金も同様に適用されます。みなし労働時間分の賃金さえ支払えば、他は何も支払う必要がないという制度ではないということです。
コメント
本件で地質調査会社が導入しているのが専門業務型裁量労働制とされます。同社で勤務する男性は新商品や新技術、自然科学に関する研究開発業務であるとのことです。しかし建設工事のための地質調査はこれらに該当せず、また事業場の労働者の過半数を代表する者との労使協定も適切に締結されていなかったとされ、労基署は同社の裁量労働制を無効としました。以上のように裁量労働制は業務の性質から時間配分や遂行の方法を労働者の判断に委ねるほうが適切な一定の業務に限定されております。また労使協定や労基署への届出など手続きも必要です。無効とされた場合はこれまでの未払い残業代分の支払い義務も発生します。裁量労働制やみなし残業代制、フレックスタイム制などの採用を検討している場合は、その要件は手続きを正確に把握した上で行うことが重要と言えるでしょう。
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