物価高で過去最大の上げ幅、最低賃金の決定基準について
2022/08/02   労務法務, 労働法全般

はじめに
厚生労働省の中央最低賃金審議会小委員会は1日、最低賃金を31円引き上げて961円とする目安をまとめた旨発表しました。上げ幅は過去最大とのことです。今回は最低賃金制度と最低賃金の決定基準について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、学識者や労使の代表などで構成される中央最低賃金審議会の小委員会は最低賃金の全国加重平均で3.3%、31円引き上げて961円とする目安をまとめました。近年の食料品やエネルギーを中心とした急激な物価上昇で消費者物価指数は3ヶ月連続で前年同月比2%以上上昇したとされます。それにより労働者側は大幅な引き上げを主張していたものの、経営者側も原材料費などの高騰により経営の厳しさは増しており小幅な値上げに留めるべきとしておりました。8月までずれ込み、最終的に経営者側が歩み寄った格好で決着を見たとのことです。
労働者の賃金制度
労働基準法24条1項によりますと、使用者は労働者に対し、賃金を通貨で直接、全額支払わなければならないとしております。時間外や休日、深夜に労働させる場合にはそれぞれ割増賃金の支払いが義務付けられます(37条)。そしてその賃金の最低基準は最低賃金法で定めるとされております(28条)。最低賃金法4条1項によりますと、使用者は最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとしており、2項で、最低賃金に達しない賃金を定める労働契約を締結しても、その部分については無効としております。無効となった部分については最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます。またこの規定に違反した場合には罰則として50万円以下の罰金が規定されております(40条)。
最低賃金の決定手続き
最低賃金は地域別最低賃金と特定最低賃金に分けられます。地域別最低賃金は職種や産業に関係なく、全ての労働者と使用者に適用されます。地域別最低賃金はその名のごとく各都道府県ごとに設定されており、中央最低賃金審議会から示される引き上げ額の目安を参考にしながら、各都道府県の地方最低賃金審議会での地域の実情を踏まえた審議・答申、異議申出手続きを経て都道府県労働局長により決定されるとされております。特定最低賃金は特定の産業について設定される最低賃金で、関係労使の申出に基づき、最低賃金審議会の調査審議を経て、地域別最低賃金よりも高い水準の最低賃金を定めることが必要と認めた産業について設定されるとされております。
最低賃金の決定基準
最低賃金法9条2項では、地域別最低賃金は、地域における「労働者の生計費」「賃金」「通常の事業の賃金支払能力」を考慮して定めなければならないとしております。「賃金」とは当該地方の労働者あるいは低賃金労働者の賃金水準等とされ、厚労省の「賃金構造基本統計調査」「毎月勤労統計調査」等を参考に必要に応じて調査を実施するとされます。「通常の事業の賃金支払能力」とは個々の企業の支払能力ではなく、当該業種において正常な経営をしていく場合に通常期待することができる賃金経費の負担能力とされます。そして厚労省労働基準局長通知(基発0701001号)によりますと、最低賃金が生活保護の水準より低くなることは問題であることから、生活保護の施策との整合性を配慮すべきとしております。
コメント
近年、コロナウイルスの感染拡大、ロシアによるウクライナ侵攻、為替相場が円安で推移していることなどの影響で急激な物価上昇傾向にあります。また税負担や各種保険料の増加も相まって一般労働者の賃金上昇への要望は非常に強いものとなっております。一方で企業側も燃料や原材料費の高騰により、特に中小企業ではコスト増加分を価格に転嫁することも容易ではなく賃金負担の上昇は経営に厳しい影響を及ぼします。そのような情勢の中での今回の最低賃金目安の31円引き上げは相当な負担と言えます。しかし上記のように最低賃金未満の労働契約は無効となり、また不払いの場合は最低賃金法だけでなく、労基法での罰則の適用も有りえます。実際に地域別最低賃金が具体的に定まるのは10月頃と予想されますが、早めに対応を準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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