東電株主らが強制執行を要求、仮執行宣言について
2022/07/26 訴訟対応, 会社法, 民事訴訟法
はじめに
東電福島第一原発の事故をめぐり、旧経営陣4人に対して約13兆円の賠償を命じられた件で、原告の株主らが東電に強制執行の手続きに入るよう要望していることがわかりました。判決には仮執行宣言が付いているとのことです。今回は民事判決の強制執行と仮執行宣言について見ていきます。
事案の概要
東日本大震災にともなう福島第一原発の事故を巡り、適切な津波対策を講じず東電に甚大な損害を生じさせたとして株主らが旧経営陣を相手取り賠償を求めていた訴訟で13日、東京地裁は約13兆円に上る賠償を命じました。これにともない原告側は東電に対し、旧経営陣への強制執行手続き開始を求めたとされます。東電側は今回の訴訟で旧経営陣側に補所参加しており、強制執行を行わない場合は原告側が代わって手続きを進めるとのことです。今回の東京地裁判決には仮執行宣言が付されているとされております。
判決確定と強制執行
金銭の支払い等を命じる判決が確定しますと、それを債務名義として強制執行に入ることができます(民事執行法22条1号)。債務名義とは請求権の存在を公証する書面を言い、判決の他に支払督促や執行証書(公正証書)なども該当します。この債務名義に、書記官によって執行文を付与してもらい差し押さえなどの強制執行に着手します。執行文とはその債務名義が現在も効力を有していることを証明するもので判決書等の下の部分に付記されます。差し押さえは不動産の場合はその旨が登記され、強制競売を経て換価されます。銀行預金などの債権についても同様に差し押さえがなされ、他に債権者がいる場合は配当がなされることとなります。通常は訴えの提起に先立って仮差押がなされることが多いと言えます。
仮執行宣言
上記のように強制執行に入るためには、原則として判決が確定していることが必要となります。しかし通常民事訴訟は時間がかかり、控訴審、上告審を経ていた場合は数年間かかることになります。それまで待っていては救済が間に合わないといったことも想定されます。そこで一定の要件のもとに判決確定前であってもその判決に基づいて仮に強制執行をすることができる旨の宣言が付されることがあります(民事訴訟法259条)。これを仮執行宣言と言います。これにより判決が確定していなくても、第一審判決の時点で強制執行に着手することができます。確定前に仮に行うものであることから、当然にその後の控訴審等で変更されることも有りえます。その場合はその変更の範囲で仮執行宣言は失効し、その分は損害賠償として相手方に返還することとなります(260条1項2項)。
仮執行宣言の要件
仮執行宣言は申立または職権により、「財産権上の請求に関する判決」に付けられることとなります(民事訴訟法259条1項)。この財産権上の請求とは、貸金の返還請求や売掛代金支払い請求、損害賠償請求といったもので、登記を命じる判決や身分関係に関する判決は該当しないとされております。仮執行宣言を付ける際に、場合によっては担保を立てることを求められる場合があります。そして手形または小切手による金銭の支払い請求の場合は必ず職権で仮執行宣言が付けられることとなります(同2項)。また逆に相手方に対して担保を立てた場合は仮執行を回避できる旨の宣言を裁判所がすることもできるとされます(同3項)。この場合は被告側は担保金を当該裁判所の所在地を管轄する供託所に供託することとなります(405条)。
コメント
本件で東電株主による旧経営陣を相手取った株主代表訴訟で、東京地裁は13兆円に及ぶ損害賠償を命じました。これは日本の民事訴訟で過去最高額と言われております。被告側が控訴したかについては不明ですが、控訴は判決書の送達を受けた日から2週間以内となっており、近日中に期限となります。今回の判決には仮執行宣言が付けられており、控訴された場合でも現時点で強制執行に入ることが可能です。東電側が行わない場合は引き続き原告の株主が手続きを行うことが予想されます。以上のように強制執行は原則として判決が確定することが必要ですが、仮執行宣言が付くことによって仮に強制執行を行うことができるとされております。この場合被告側は控訴すると同時に担保提供をすることによって強制執行の停止を申し立てることもできます。訴訟の際にはその後の権利の実現段階の手続きについても確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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