ダイソン・パナソニック間訴訟から紐解く「誤認惹起行為」
2022/06/16   コンプライアンス, 広告法務, 不正競争防止法, 景品表示法

はじめに

 ダイソンは9日、パナソニックのヘヤードライヤー「ナノケアEH-NA0G」の広告が不正競争防止法に反するとして東京地裁に差止を求め提訴していたことがわかりました。広告表示が不正確で消費者に誤解を与えるとのことです。今回は不正競争防止法の誤認惹起行為について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、ダイソンは、パナソニックのヘヤードライヤー「EH-NA0G」の広告宣伝などで表示されている「(高浸透技術によって)水分発生量が従来の18倍」「(イオンなしのドライヤーに比べて)ヘアカラーの色落ちを抑えます」等の表現が一般消費者の誤解を招くとしております。ダイソン側はこれを裏付けるものとして独立した第三者機関による試験結果を証拠として提出し、今後これらの広告表示を行わないよう差止と広告表示の削除を求め提訴したとのことです。損害賠償等の金銭的請求は行っていないとされ、パナソニック側は「提訴の詳細の確認がとれていないため、現時点ではコメントを差し控えさせていただく」としております。

 

誤認惹起行為とは

 不正競争防止法2条1項20号によりますと、広告や取引に用いる書類等に原産地、品質、内容、製造方法、用途、数量等について誤認させるような表示等をする行為は不正競争行為として禁止されております。不正競争行為によって営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある者は侵害の停止や予防を求める差止請求を行うことができ(3条)、故意または過失による不正競争行為によって営業上の利益を侵害された者は損害の賠償請求を行うことができます(4条)。また誤認惹起行為を行った場合、罰則として5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはこれらの併科が規定されております(21条2項1号)。

 

誤認惹起行為の具体例

 誤認惹起行為に当たるとされた具体例として、京都で製造加工されていただけで、原産地が京都ではない茶葉を使用した茶を「京の柿茶」と表示して販売していた例(東京地裁平成6年11月30日)や、本みりんではないみりんタイプ調味料に、「本みりん」の表示を強調して販売していた例(東京地裁平成2年4月25日)が挙げられます。また「燃焼時に発生するすすの量が90%減少している、火を消したときに生じる匂いも50%減少している」との表示がなされたろうそくが、検証の結果そのような効果がみられなかった例(大阪高裁平成17年4月28日)や、生クリームや脱脂粉乳、水などが混ぜられた加工乳であるにもかかわらず、「成分無調整」と表示していた事例でも誤認惹起行為に該当すると判断されております(仙台地裁平成9年3月27日)。一方で「5年間完全ノーワックスを実現」などと表示していたカーワックスで、5年後に約93%の光沢を維持しているデータがあることや、車の輝きは見る者の主観によるところが大きく、ある程度幅があるものであるとして誤認惹起行為に該当しないとした例もあります(知財高裁平成17年8月10日)。

 

景表法による規制

 一般消費者に実際のものよりも著しく優良である誤認させ、一般消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある表示は、優良誤認表示として景表法でも禁止されております(5条1号)。ここでの「著しく優良」とは、誇張の程度が一般消費者を基準として社会一般に許容される程度を超えている場合を言うとされております。違反に対しては消費者庁による差止や必要な措置を命じる措置命令(7条1項)や、課徴金納付命令が出される場合があります(8条)。課徴金は期間の上限を3年とし、対象商品または役務の売上の3%となっております。不当表示行為を自主的に申告した場合には50%が減免され、また事業者が自主的に返金する計画を策定し、認定を受けて実施した場合にも減免されます(9条)。

 

コメント

 本件ではパナソニックのヘヤードライヤーの広告で、水分発生量が従来の18倍である旨や、ヘアカラーの色落ちを抑える旨などの表示がなされているとされます。ダイソンは検証の結果、根拠がないなどとして差止を求め提訴しております。上記のように品質に関する表示では、どの程度根拠が認められるか、また一般消費者から見てどの程度の表示が許容されるかの判断は、事例によってかなり幅があると言えます。今後はこれらの表示の根拠や一般に与える印象などが争点になっていくものと考えられます。以上のように製品の広告表示に関してはいくつかの法令で規制が設けられております。一般に広告ではある程度の誇張がなされることは許容されておりますが、公正な競争を阻害するものや、一般消費者の合理的な選択を阻害する程度のものは違法となります。これらを踏まえ、今一度自社の広告を見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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