まねきTV事件~情報化社会、保守的思考で乗り遅れ?~
2011/01/29   知財・ライセンス, 著作権法, エンターテイメント

事件概要

今回の事件は、ロケーションフリーを利用したサービス「まねきTV」を運営する株式会社永野商店に対して、NHKと在京民放テレビ局5社がサービスの停止と損害賠償を求めた訴訟の上告審判決。
上告審では、テレビ局側の訴えを認めなかった二審判決を破棄し、審理を知財高裁に差し戻した。

著作権法

・著作権法23条1項
著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。

・公衆送信は、2条1項7号の2で定義され、、自動公衆送信は、9号の4で定義されている。送信可能化は9号の5で定義さている。
これらの条文から、インターネットサーバーにプログラム等の著作物をアップロードして、インターネット上で利用可能にすることが著作権法で保護されることになった。したがって、他人の著作物をインターネットで公開するときには、送信可能化権についての許諾が必要となる。

今回の判決のポイント

・「送信可能化権」

今回の事件では、自動公衆送信装置にあたるのか、という点が問題になっている。

判決では、「公衆の用に供されている電気通信回線に接続し、装置に入力される情報を受信者からの求めに 応じて自動的に送信する機能を有する装置は、単一の機器宛に送信する機能しか有しない場合であっても、行われる送信が自動公衆送信であると言えるときは自動公衆送信装置に当たる」、としている。

これは、1対1の通信機能しかない機器(今回の事件で問題になっているロケーションフリー)でも、公衆の用に供されている電気通信回線に接続し、ユーザーからのリクエストに応じてデータを自動的に送信する機能を有する機器をもちい、サービスを提供していれば、それは自動公衆送信に該当すると評価してるといえる。

・「不特定性」

前述のように、公衆送信とするには、サービスの提供を不特定多数にする必要がある。

しかし、ここで問題なのが、

まねきTVの場合は、個別のロケーションフリーを総体で管理はしていない、ということである。
そして、ロケーションフリー本体には録画機能がないため、受信した放送波をリアルタイムでストリーミングするのみである。
そうだとすると、ロケーションフリーは、常に1対1の視聴しか許さないシステムといえるのではないだろうか。契約者数の数だけロケーションフリーが必要である。
また、まねきTVのシステムは、全体で1つのシステムとして動作していないことから、1対1が沢山集まっただけの状態である。

そうだとすると、自然に考えて、「不特定性」があると解釈していくのは、困難ではないだろうか。

そのあたりについて、今回の判決では、「不特定性」があるとされた。概要は以下の通りである。

「ベースステーションを分配機を介するなどしてテレビアンテナに接続し、受信された放送が継続的に入力されるように設定した上、事務所に設置・管理していることから、利用者がベースステーションを所有しているとしても、送信の主体は永野商店とみるのが相当だと指摘。サービスは契約を結べば誰でも利用可能であることから、送信の主体である永野商店から見てサービスの利用者は不特定の者として公衆に当たり、ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり、サービスは放送の送信可能化に当たる」

検討

なぜ、今回、このような判決となってしまったのか、かなり疑問であるといえる。
送信可能権について争っているのに、なぜか、放送局側を勝たせようと、無理に解釈をしているように感じる。
少なくとも、送信可能権ではなく、ストリーミングという点に焦点をあて、有線放送権の侵害など、他の争い方をしてくべきだったようにも思うのである。

さらに、インターネットは、そもそも、公衆の用に供されている。また、リクエストに応じてデータを自動的に送信する機能は、大抵の通信機器が備えている機能である。
仮に誤りを恐れずに推測してしまえば、ルータやハブまで、自動公衆送信装置として、公衆送信権侵害になりかねない。

クラウド型サービスが注目されている昨今、このような司法判断が、本当に妥当なのであろうか。今回の判決が及ぼす影響は大きいと言える。

最後に

コンテンツの著作権を保護する事も重要だが、利用者の利便性を極端に制限をしてしまうことには問題が多いと言える。
規制すればするほど利用者は減るし、進歩の速いITサービスに、日本だけが乗り遅れることになるからだ。

また、いくら国内で規制をしても、海外のWebサイトに日本の番組などが、多くアップされているのは事実。今回のように、海外から番組を見たい視聴者のコンテンツの利用による収益化のチャンスをみすみす逃してしまっているのではないだろうか。

これは、憶測であるが、番組の制作費に、DVDなどのコンテンツ販売の売り上げを見込んでいるのではないだろうか。そのために、日本の放送局は、ネットへの適応力が遅れているのではないだろうか。
本来、これだけの進歩をみせるネットの領域において、それを収益化する方法は、考えればありそうでもある。まずは、時代の流れにのって、儲かるのであれば、現実に合わせて対応していくことの方が重要なこともあると感じる。

法律と現実の社会との調和。
IT分野では、現実の社会の方が、先を進んでいるのであれば、法は、最低限のところだけをフォローし、見守るという姿勢でもいいのではないだろうか。

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