京都地裁、YouTubeへの「動画削除要請」を不法行為認定
2021/12/22 知財・ライセンス, コンプライアンス, 民法・商法, 著作権法

はじめに
動画投稿サイト「ユーチューブ」に投稿された動画が著作権侵害との指摘で削除申請されたとして富山県の女性が京都府の女性らに慰謝料などを求めていた訴訟で21日、京都地裁は計約7万円の支払いを命じていたことがわかりました。編み物の手法は著作物に当たらないとのことです。
事案の概要
読売新聞によりますと、原告と被告の女性はいずれも編み物の手法や作品を動画にして投稿するユーチューバーで、原告女性が投稿した2本の編み物の動画に対し、昨年2月に被告女性らが著作権侵害を理由にユーチューブ側に動画削除要請をしたとされます。ユーチューブは2本の動画を規定に基づいて削除したため、原告女性は被告側に対し慰謝料など約119万円の支払いを求め提訴していたとのことです。原告側は「編み方は著作物にあたらず、通知を悪用した不法行為」と主張していたとされます。
著作権とその発生
著作権法によりますと、著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」とされております(2条1号)。自己の考えやアイデアなどを自分の言葉で文字や音楽などにしたものであればよく、巧拙も年齢も問われません。著作権は特許や意匠などとことなり監督官庁への登録などは必要なく、著作物が創作された時に著作権が生じることとなります(50条1項)。そして著作権者の死後70年を経過するまで存続するとされます(同2項)。著作権侵害に対しては、著作者や著作権者、出版社、実演家などはその侵害の停止または予防の請求をすることができ(112条1項)、損害賠償の請求をすることもでき、損害額の推定規定も置かれております(114条)。また罰則として10年以下の懲役、1000万円以下の罰金、またはこれらの併科が規定されております(119条1項)。
著作物の範囲
それではどのようなものが著作物として認められるのでしょうか。文化庁のサイトによりますと、「思想又は感情」を表現したものであることが必要とされ、単なるデータは除外されます。「表現したもの」である必要がありアイデア等の段階ではいまだ著作物とは言えないとされます。「創作的」とは他人の作品の単なる模倣では該当しないとされます。そして「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」に属する必要があり工業製品等は除外されます。具体的には小説や脚本、論文、講演などの言語の著作物、曲や歌詞などの音楽、身振りや動作による舞踊などの無言劇、絵画、版画、彫刻などの美術品、建築物、地図または学術的な図面、写真、映画やテレビ番組、ゲームソフトや動画サイトに投稿されているコンテンツ、コンピュータープログラムなどが該当します。
ユーチューブの削除依頼
ユーチューブなどの動画投稿サイトでは、著作権やプライバシー権、名誉権などを侵害する動画に対して、被侵害者や第三者の申し立てにより該当動画を削除する手続きが用意されております。具体的には、動画に設置された報告ボタンから侵害の種類を選択して通報することとなります。これにより運営側が権利侵害を確認すると該当動画が削除されます。またユーチューブのコミュニティガイドラインでは、これら以外にもスパムや欺瞞行為、性的または暴力的なコンテンツ、誤った情報を含み誤解を招くコンテンツ、その他法令に違反する規制品に関するコンテンツなども報告の対象としております。
コメント
本件で問題となったのは、ユーチューブに投稿された動画内の編み物の技術や手法自体が著作権の対象となるかです。被告側はこれを著作権侵害として削除要請し、それにより運営に削除されました。これについて京都地裁は、「技術や手法といったアイデアは著作権による保護の対象とはならない」とし、双方の動画について編み方や説明などが類似しているとも認められないとしました。その上で著作権侵害の成否に問題があるとわかりながら独自の見解に基づいて削除要請したことには過失があり不法行為を認めました。権利侵害に当たるかに疑義がある場合には動画の削除要請行為自体が不法行為となりうることを示した点が画期的と言えます。以上のように単に手法や技術それ自体は、他の法令による保護はともかく著作権の対象にはならないということです。また根拠のない削除要請も違法となる場合がある点に注意が必要と言えます。自社で動画を投稿・管理する際にはこれらの点にも注意しておくことが重要と言えるでしょう。
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