東京地裁が音楽ファイル違法アップロード者の情報開示へ
2021/11/17 知財・ライセンス, 著作権法, プロバイダ責任制限法, エンターテイメント

はじめに
日本レコード協会は16日、「東京地裁がインターネット上に大量の音楽ファイルを違法にアップロードしていた者の情報を開示するよう命じる判決を出した旨」発表しました。ファイル共有ソフト「BitTorrent」が利用されていたとのことです。今回はプロバイダ責任制限法による開示について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、日本レコード協会会員のレコード会社が権利を有する音源をBitTorrentを利用して違法にアップロードしている者に対し、著作権侵害による損害賠償請求をするため今年3月から9月にかけてプロバイダ各社に情報開示を求めていたとされます。違法アップロードしていたとされるIPアドレス37のうち31についてはプロバイダから任意に情報開示がなされていたものの、プロバイダ5社は開示に応じなかったとして東京地裁と千葉地裁に提訴していたとのことです。37のIPアドレスのうちログが保存されていなかった1つを除き全てのIPが開示されたとされます。
プロバイダ責任制限法による規制
インターネット掲示板等に他人の権利を侵害する情報が掲載された場合、プロバイダはそれを放置しても削除しても損害賠償請求などを受けるリスクが生じます。放置した場合は被害者側から請求されるおそれがあり、また削除した場合は書き込んだ者の表現の自由を侵害したとして請求されるおそれがあるということです。そこでプロバイダ責任制限法は、放置する場合でも削除する場合でもプロバイダが免責されるための要件を明確化しております。またインターネット上の書き込み等によって被害を受けた者が発信者に損害賠償請求などを行えるように一定の要件のもとで発信者の情報開示を請求できる制度が設けられております。
プロバイダの責任の明確化
プロバイダ責任制限法3条1項によりますと、プロバイダが権利侵害を知っていたとき、または知り得たと認めるに足る相当の理由がある場合以外は免責されます。これは権利を侵害する情報を削除しなかった場合の免責規定です。そして情報を削除する場合は、権利が不当に侵害されていると信じるに足る相当な理由があるとき、または発信者に削除に同意するか照会したが7日以内に反論がない場合に免責されます(同条2項)。また措置を講じることが技術的に不可能である場合も免責されます。このようにプロバイダは権利侵害のおそれのある情報を放置する場合、または削除する場合のいずれにおいても免責される要件が明確化されております。
発信者情報の開示請求
インターネット上に自己の権利を侵害する情報が流通している場合、権利侵害が明らかであり、かつ開示をうけるべき正当な理由がある場合にプロバイダに対し発信者の情報開示を請求することができます(4条1項)。開示請求を受けたプロバイダは発信者に対し開示するかどうかについて意見を聴くこととなります(同2項)。プロバイダが任意に開示しない場合は、裁判所に開示請求の訴えを提起することとなります。任意に開示しないことによる損害は、プロバイダに故意または重過失がなければ免責されることとなります(同4項)。発信者情報の開示を受けた者は、その情報をみだりに用いて不当に発信者の名誉や生活の平穏を害する行為をしてはならないとされております(同3項)。
コメント
本件で自社が権利をもつ音源をファイル共有ソフトを使ってインターネット上に違法アップロードされたレコード会社はプロバイダ各社に対し4条に基づく発信者情報開示請求を行っていたとされます。プロバイダ16社のうち11社は任意に開示し、5社は開示しなかったことから裁判所に提訴され、開示が認められたとのことです。レコード会社側はその情報をもとに発信者に今後侵害行為をしない旨の誓約と賠償金の支払いに関し協議を進めているとされます。以上のようにプロバイダ責任制限法ではプロバイダの責任の範囲の明確化と、情報開示の手続きが規定されております。名誉毀損的な書き込みがなされている場合や、自社の著作権が侵害されている場合に損害の回復を図る手段が提供されております。今一度これらの制度を確認しなおしておくことが重要と言えるでしょう。
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