上限規制適用で初摘発、時間外労働規制について
2021/07/23 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
時間外労働の上限規制を超えて働かせていたとして、香川県の冷凍食品製造会社などが労働基準監督署に書類送検されていたことがわかりました。上限規制違反で摘発されたのは全国初とのことです。今回は労基法の時間外労働規制について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、書類送検されたのは香川県内の冷凍食品会社「ちぬや冷食」と親会社の「味のちぬや」(三豊市)の工場長ら3人とされます。
労基署によりますと、「ちぬや冷食」などは2020年4月から6月にかけて、工場で働く外国人技能実習生ら10人に月100時間を超える時間外労働をさせていたとされ、同年7月の労基署による立入検査では虚偽の書類を提出して時間外労働はさせていないと説明していたとのことです。10人のうち1人は月184時間におよぶ時間外労働をしていたとされます。
労基法による労働時間規制
労働基準法では厳格に労働時間が規定されており、使用者は労働者に、休憩時間を除き、1日8時間、1週間で40時間を超えて労働させてはならないとされております(32条1項、2項)。
これを超えて時間外労働をさせるためには、労働組合または労働者の過半数を代表する者と書面で協定を結び、労基署に届け出る必要があります(36条1項)。これがいわゆる36協定と呼ばれるものです。
そして労働時間が6時間を超える場合は最低45分、8時間を超える場合は最低1時間の休憩時間を与える必要があり(34条1項)、また毎週最低1回の休日を与える必要があります(35条)。
時間外労働時間の上限
上記36協定を締結していても、労働者を無制限に時間外労働させることはできません。労基法36条4項~7項では時間外労働の上限が規定されており、臨時的な特別の事情がなければ月45時間、年間360時間となります。
臨時的な特別事情があり、労使で合意がある場合でも年間720時間、複数月平均80時間、月100時間未満となります。月80時間とは1日あたり4時間程度の時間外労働に相当し、原則である月45時間を超えることができるのは年間6ヶ月までとされます。
これに違反した場合には罰則として6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が規定されております(119条1項)。
厚労省の過労死ライン
厚労省は過労死における労災認定基準を定めており、過重労働による脳・心臓疾患で死亡した場合、発症前1ヶ月間で100時間、2~6ヶ月平均で80時間の時間外労働を行っていた場合、疾患と労働との因果関係が強いと判断されます。
この80時間を一般に過労死ラインと呼ばれており、労災認定の重要な目安となっております。先日厚労省はこの過労死ラインを超えない場合でも、それに近い労働時間が認められ、さらに一定の労働時間以外の負荷が認められる場合には業務と発症との関連性が強いと評価できると、若干の運用変更を発表しました。
コメント
本件で「ちぬや冷食」は外国人技能実習生を月に100時間を超える時間外労働をさせていたとされ、またそのうちの1人は月の時間外労働が184時間にもおよぶとされます。これは1日あたりの残業時間が概ね10時間におよび、ほぼ1日中労働していたに近い状況と言えます。
また立ち入り調査で虚偽の書類を提出していたとされ、特に悪質な事例と判断されたものと考えられます。
以上のように現在労基法では時間外労働に罰則付の上限が規定されております。これは前安倍政権での働き方改革の一貫で法改正されたものです。従業員に時間外労働をさせている場合は、それぞれの従業員の労働時間は上限を超えていないか、またそもそも36協定は適法に締結されて労基署に届出ているかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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