ミュゼプラチナム、従業員から破産申立て/給与未払い問題と破産手続き
2025/05/19   労務法務, 事業再生・倒産, ファイナンス, 労働法全般, 破産法, サービス

はじめに

全国展開する脱毛サロン「ミュゼプラチナム」の従業員らが、給与の未払い問題を受けて、5月16日、東京地方裁判所に破産手続開始の申立てを行ったことが明らかになりました。今回の申立ては、会社側ではなく債権者である従業員側から行われた点が特徴で、資産の散逸を防ぐ狙いがあるとされています。

 

事案の概要

ミュゼプラチナムは、3月22日から全国の約170店舗を一斉に休業しており、それ以前から経営状況の悪化が指摘されていました。全取締役が解任されるなど経営体制の混乱が続いていますが、特に深刻なのが従業員への給与未払い問題です。報道によると、未払いは2024年末から続いており、対象となる従業員は約2,300人、未払い金額はおよそ15億円に達すると見られています。

経営陣は事態の打開に向けて具体的な対応策を示すことができておらず、政府の「未払賃金立替払制度」の活用を推奨するなど、実質的な給与支払いの放棄とも取れる姿勢が批判を呼んでいます。こうした背景のもと、従業員らが自主的に破産手続を申し立てるという異例の展開を迎えました。

 

破産手続きとは?

今回、従業員らが申し立てた破産手続き。破産は、民事再生や会社更生などと並ぶ倒産処理の一つです。経営難によって債務超過に陥り、立て直しの目途が立たなくなった場合に裁判所に申立て、開始決定が出れば破産手続きに入ることとなります。
経営を立て直し、事業を継続していくことを前提とした民事再生や会社更生とは異なり、破産は「会社を解散させ、債権債務を精算すること」を目的としています。

破産手続きに入ると、破産管財人が選任され、会社の財産等が調査されたうえで、財産の換価や配当などが行われていくこととなります。負債は免責されることになりますが、資産は全て精算され、従業員も全て解雇となり事業は全て終了となります。以下具体的な破産手続きを見ていきます。

 

破産手続きの流れ

まず破産の申立てを行うと決めた場合、その準備として従業員の解雇や賃借物件の明け渡し、予納金の用意などを行います。

そのうえで、裁判所に破産手続開始の申立てを行いますが、申立ては債務者だけでなく債権者も行うことができます(破産法18条2項)。

申立ての際には予納金の納付も必要です。予納金は債権者の数などで増減しますが20~80万円程度とされます。裁判所が審査を行い要件を満たしていると判断されると破産手続開始決定が出され、破産管財人が選任されます。

これ以降は会社の財産の管理権限は破産管財人に移行します。破産管財人は会社の財産等を引き継ぎ、債権債務の調査などを行います。破産手続開始決定が出た日から3ヶ月程度で債権者集会が開催され、債権者に換価状況などが説明されます。

その後、会社財産の換価によって破産財団が形成され、債権者に配当が行われ、配当が終了すると裁判所が破産手続終了決定をして全ての手続きが完了となります。

 

債権者による申立て

上述したように、破産手続開始の申立ては債務者だけでなく債権者も行うことができます。

この場合、裁判所は申し立てた債権者と債務者の双方を審尋することとなります(13条)。会社側としてはまだまだ事業を継続し、負債も返済していくつもりであったなど、意に沿わぬ破産の申し立ての場合も多く裁判所も慎重な判断を要するからです。

また、申し立てに際しても、債権者の有する債権の存在と破産原因を疎明することが求められています(18条2項)。これは債権者による濫用的な申し立てを防止するためと言われています。

しかし一方で、債務者側が債権者に対して誠実に対応しなかったり、財産隠しの危険があるといった場合には債権者側から破産手続を申し立てる実益はあると言えます。さらに、破産法第265条では、破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で債務者が財産の隠匿や損壊、財産の譲渡や債権負担の仮装、財産の現状改変や価格を減損する行為などを禁止しています。これは詐欺破産罪と言い10年以下の懲役または1000万円以下の罰金という重い罰則が規定されています。

 

コメント

今回のミュゼプラチナムのケースは、従業員が債権者として破産手続きを申し立てるという非常にまれな例です。給与という最も基本的な労働条件が長期にわたって守られなかったこと、そして経営陣の明確な対応がなかったことが背景にあります。

従業員による破産申立ては決して一般的ではありませんが、財産保全のためには必要な措置となることもあります。特に給与債権には民法上の「先取特権」が認められており、他の債権に優先して回収が図れる仕組みもあります。

経営が苦しい局面においては、資金繰りの見通しだけでなく、法的対応や従業員との誠実な対話を含めた総合的な対応が求められます。

 

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