東南アジアの法務事情~その1 タイ編~
2010/08/19   海外法務, 海外進出, 外国法, その他

今回から、成長著しい東南アジアにおいてビジネスを行う際に注意すべき法務事情についてレポートします。今回はタイについてのレポートです。

1 はじめに

 正式名称を、タイ王国(Kingdom of Thailand)と言う。面積は、513,115k㎡で日本の面積の約1.4倍であり、人口は約6,339万人で日本の約0.5倍となっている。首都はバンコクで、言語はタイ語が主に用いられている。
政治体制については、立憲君主制を敷いており、元首としてプーミポン・アドゥンヤデート国王(ラーマ9世)が君臨している。
経済面については、2008年のGDPは2733.13億ドルであり、日本の約5%であった。

2 タイの対内投資について

 タイは、かつて「東アジアの奇跡」と呼ばれたように、優遇税制を背景とする対内投資を背景に1997年のアジア通貨危機が生じるまで、年間GDPで約9%の成長を続けていた。同年の通貨危機により、経済規模が大きく縮小したものの、1999年にGDPの成長率は再び4%を記録し、2003年には6%を記録した。
 このような対内投資については、BOI(Board of investment, タイ国投資委員会)による誘致により行われてきた。しかし、対内投資による経済成長のもとでインフラの未整備や地域間の経済格差といった問題も生じることとなり、97年のアジア通貨危機と相まって経済政策の見直しが図られた。そこで、99年に外資規制を定める外国人事業法では、以下のような規制が定められた。

外国企業(外国資本が50%以上の企業)の参入禁止業種

  • ① 農林水産業等

  • ② 安全保障・文化工芸の保護・資源環境に関する業種

  • ③ 外国人に対して競争力が不十分な業種(会計・法律・広告等)


一方で、BOIは2000年8月施行の投資奨励策において、タイ国内の地域発展や国際競争力確保の観点から、軽工業や機械・電子工業等に対して法人税の減免や機械・原料輸入税の免除を認めている。また、インフラ事業や環境保全事業等に対しては特別重要事業として、より大きな優遇策を施している。

 なお、2008年時点での対内直接投資額は3,511億4200万バーツであり、その内日本からの投資額は1,061億5500万バーツで全体の約30%を占める。

3 タイの法律について

(1) 法制度の近代化

 各国の法制度としては、判例法を中心に据える英米法系の法制度と制定法を中心に据える大陸法系に分かれるが、タイでは大陸法系の法制度が採られている。その背景としては、以下のことが存在する。19世紀後半のラーマ4世の時代に、欧米の列強諸国が関税自主権の排除や治外法権を求めて友好通商条約を結んだ。そのような欧米列強とのタイにとっては不利な条約を撤廃すべく、タイでは近代化が進められ、それに伴い法制度も整備された。それに際し、一部の分野を除いて大陸法が導入された。
 このようなタイの法制度の近代化の背景は、江戸時代に欧米諸国との不平等条約を締結し、近代化を迫られることとなり、明治時代にドイツ・フランスから法制度を輸入した日本の法制度の近代化と共通する部分が多い。

(2) タイの会社法について

 タイにおける会社形態としては、以下の4つが存在する。つまり、①普通パートナーシップ、②有限パートナーシップ、③非公開会社、④公開会社である。①ないし③は民商法により規定され、④について公開会社法により規定される。
 ①・②は複数の出資者(①は全員が会社の債務につき無限責任を負い、②では少なくとも1人は出資額以外は責任を負わない。)が共同事業を行い、収益を分配する契約である。
③・④は株式の形で資本が出資され、株主は全て有限責任にとどまる形態である。その違いは、③では株式や社債の一般公募ができず、④では可能であるという点である。
 ①・②では、企業の組織・機関といったいわゆるコーポレートガバナンスに関する規定は無い。③・④における大きな違いとしては、④についてはSEC(証券取引委員会)の規制という形で、独立取締役の設置義務が課せられていること、三人以上で構成される監査役会の設置が義務付けられること、及び会計監査人につきSECの認証したものである必要があること、である。
 このようなことから、タイでは公開会社以外の会社ではコーポレートガバナンスの規制が比較的緩いといえる。なお、タイでは公開会社の数は670社程度であり、圧倒的に同族会社などの非公開会社が多い。

(3) タイの競争取引法について

 タイでは、メーカーに対して競争取引員会(日本の公正取引委員会に相当)が取引競争法(1999年制定)違反となる行為について監査している。同法は、市場支配力の濫用、合併の際の許可、カルテルの禁止、新規市場参入妨害の禁止等を定めているが、現時点(2010年8月)で正式に告発され、裁判に至ったケースは無い。

(4) タイの金融規制法について

 1997年のアジア通貨危機以降、タイでは金融機関の再生が遅れた。その原因は、金融監督機能や市場規制の不備が原因とされた。そこで、2007年に①タイ中央銀行法の改正、②金融機関法、③預金保険機構設置法の金融改正3法が制定された。①では、中央銀行の「物価と金融システムの安定」という設置目的が明示され、総裁の人選につき任命委員会の人選と閣議の承認が定められるとともに、任期を5年(1回のみ再選可)とし、その独立性を強化した。②では、自己資本比率につき規定するとともに、中央銀行同比率が8.5%を下回った商業銀行に対する是正命令権限や金融検査権限・罰則賦課権限を認めた。③により、2全額預金保険制度から部分預金保険制度へと移行させて、市場による規律を促すこととなった。

(5) タイの知的財産法について

 タイを始めとするASEAN諸国では、模倣品が流通しており、模倣品対策が重要となっている。現在タイに存在する知的財産に関する法律は、特許法、商標法、著作権法、植物品種保護法、営業秘密法、地理表示法である。特許法においては、工業意匠に関して別個法律を設けている日本とは異なり、工業意匠についてもカバーしている。 
 タイ政府は商務省の内部組織として知的財産局(DIP)を設立する等知的財産侵害に対する取締りを強化している。その効果は以下の表から一定程度現れているといえる。


日本とタイの知的財産侵害に関する逮捕・没収件数











逮捕件数没収件数
日本タイタイ
20093647,271291,7995,151,887
20083855,923617,3093,416,316
20074417,118588,7963,746,036
20064939,575553,5502,823,588

 しかしながら、DIPの審査官の能力が十分といえず、また組織犯罪としてドラッグから知的財産侵害にシフトしていること、警察による捜査の結果のうち裁判所に報告されるのが60%程度にとどまること等から、未だ取締りは十分ではない。現に、アメリカ通商代表部(USTR)による包括通商法スペシャル301条(知的財産権侵害国の特定・制裁)の2010年度年次報告において、タイは4年連続で「優先監視国」に認定されている。

(6) タイの租税法

 タイで事業活動を行う法人については、原則として30%の税率で法人税を納めなければならない。一方、事業活動を行わない法人についてはサービス料、賃貸料、配当等の源泉所得についてのみ課税対象となる。
 日本とタイは二重課税回避・脱税防止のための租税条約を締結している。この条約はタイ国内の租税法に優先し、日系企業はタイ国内に恒久的施設(PE)を有しない限り、タイの租税法は適用されないことになる。なお、恒久的施設を有するかどうかは形式的な面ではなく、機能面を重視して判断される。具体的には、支店・事業所・1年を超えて建設作業等の役務の提供を行うもの・非居住者のためにその事業につき契約を締結する権限のあるもので常にその権限を行使するもの等は恒久的施設を有するものとされる。

(7) タイの労働法について

 タイにおいて日本人を含む外国人を就労させるには、就労ビザによる入国後、入国管理局から滞在許可を受けた上で労働省から労働許可証を取得させる必要がある。タイにおいては、肉体労働・店員・理容業・観光案内業・事務員・法律、訴訟に関する業務等合計39業種については、外国人の就労は禁じられている。
 労働保護法については、1日8時間、1週間の合計が48時間以内という時間規制があり、時間外労働に関しては1週間で36時間を越えないという原則がある。有給に関しては、勤務年数で日数が増える日本とは異なり、1年以上勤務した場合には一律に年6日以上の有給を取るが与えられる。解雇に関しては、使用者への故意の刑事犯罪、過失による重大損害、正当な理由無く3労働日連続で職場を放棄すること等に関して解雇事由と定められている。

(8) タイの賄賂について

 タイの警察や高官による賄賂要求といったものをしばしばニュースで目にすることから、タイの公務員に対する賄賂の規制についても触れておく。
 日本の不正競争防止法18条は、外国公務員に対する賄賂を禁止しており、本人によるタイの公務員に対する賄賂は同条の適用対象となる。

(9) タイの法曹事情について

 タイでは、裁判官及び検察官が約3,000人、弁護士が約49,000人いる。法曹資格に関しては大学で法学士を取得後、一年間の研修を経て試験に合格した場合に弁護士資格を得られる。裁判官は弁護士としてキャリアを積んだものが任命される。弁護士の中でも開業しているものは約半数であり、日本以上に市場競争があるものと思われる。なお、弁護士資格はタイ国籍を有するものに限られているが、日本人でもタイの弁護士を雇うことで法律業務を行うことは例外的に認められる。

以上

<参考文献等>












・今村哲也「研究ノート タイ王国における知的財産法制度の状況(1)」 早稲田大学COE<<企業と法創造>>研究所  2005年11月
・財団法人世界の動き社「海外生活の手引き2 東南アジア編Ⅰ」178~252ページ 200年3月Amazonで購入
・丹野勲「タイの会社法とコーポレートガバナンス」神奈川大学国際経営フォーラム 2009年7月
・財団法人 国際通貨研究所 本邦金融機関/多国籍企業から見た円の国際化推進のための施策に関する調査PDFファイル
・パトラサック・ワンナセーン「タイ王国の特許制度と権利の執行」PDFファイル
・警察庁 平成17年度白書該当ページ
 警察庁 偽ブランド品・海賊版の根絶に向けて!PDFファイル
・JETRO タイの各種制度に関する情報該当ページ
・Thailand's Implementation on Intellectual Property Rights(March 2009-February 2010)」PDFファイル
(リンク切れ)
・タイ、4年連続でブラックリスト 米知的財産侵害報告|newsclip.be タイ発ニュース速報サイト|newsclip.be該当ページ
(リンク切れ)
 →代替リンク

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