賃金不払いで運送会社の社長を書類送検、賃金に関する規制について
2019/12/19 労務法務, 労働法全般

はじめに
従業員に半年分の賃金を支払っていなかったとして、石川県かほく市の運送業者代表取締役が書類送検されていたことがわかりました。当時の時給は最低賃金を下回っていたとのことです。今回は賃金に関する法規制を見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、運送業「株式会社エムズ」(石川県かほく市)は従業員2人に対して2018年10月分~2019年3月分までの半年分の賃金合わせて65万5929円を支払っていなかった疑いが持たれています。さらに当時の時給は石川県の最低賃金を下回っていたとのことです。これにより同社代表取締役の50歳の男性が書類送検されており、同社は今年2月いっぱいで業務を停止しているとされます。
賃金に関する法規制
賃金とは給料、手当、賞与などの名称を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものを指すとされております(労基法11条)。賃金は労基法だけでなく、労働組合法やパートタイム労働法、労働保険徴収法、最低賃金法、などでも規定が置かれている労働関係法令での基本となるものです。今回はその中でも特に労基法と最低賃金法による規定を以下見ていきます。
労基法による規制
労基法24条では賃金は「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」とされております。そしてその2項では賃金は「毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と規定されております。これらは一般に賃金支払の5原則とよばれております。まず賃金は原則として現物支給が禁止され、通貨で支払う必要があります。ただし例外として労働者との同意で銀行振込が可能であり、また労使協定によって現物支給も認められます。そして賃金は中間者を介さず直接本人に支払う必要があります。また1ヶ月に1回以上の頻度で一定の日を定めて必ず全額をまとめて支払う必要があります。これらに違反した場合には罰則として30万円以下の罰金が科される場合があります(120条)。
最低賃金法による規制
最低賃金法では国が賃金の最低限度を定め、使用者はその最低賃金額以上の賃金を支払わなくてはならないとされております。最低賃金は地域別最低賃金と特定最低賃金に分かれております(9条、15条)。地域別最低賃金はすべての労働者、使用者が対象となっており、各都道府県ごとに定められます。特定最低賃金は特定の地域内における特定産業について定められたものです。たとえば北海道なら乳製品製造業、愛知県なら自動車小売業、大阪府なら鉄鋼業というように定められます。両者が競合する場合には事業者はその高い方を基準に支払う必要があります。また派遣業の場合は派遣先の最低賃金が適用となります。違反した場合は罰則として50万円以下の罰金が科されることがあります(40条)。
コメント
本件で株式会社エムズは半年間にわたって賃金が支払われていなかったとされます。また当時石川県の最低賃金は時給806円となっており、それを下回っていたとのことです。これにより最低賃金法違反の疑いで書類送検されております。このように賃金不払いの事例では多くの場合その地域の最低賃金も下回っていることがあります。また賃金不払いには会社の車や機材を破損させたとしてその修理費用を賃金から差し引くといった例も多いとされております。このような賃金からの控除は賃金全額払いの原則に違反し労基法違反となります。厚労省の発表では賃金不払い等による送検数は毎年10件~20件程度発生しております。現在の東京都の最低賃金は1013円となっております。これらを踏まえ今一度従業員の賃金状況を確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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